薄明
ごじょうさとる×ふしぐろめぐみ
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2023.09.04 23:12:40 編集
2026年6月 この範囲を時系列順で読む この範囲をファイルに出力する
バカにつける薬はない
バカップルってこと
伏黒恵25歳、春を迎える少し前。左手を頭上にかざして、ため息を吐き出した。
朝目覚めるなり左手の指に鈍い痛みを感じ、見てみたら歯型が付いていたのだ。左手の薬指。何かと付けられる首元だの胸元だのではなく、なんなら昨夜は同じ布団でただ寝ただけで歯型を付け合うような事をした覚えもない。違和感ばかりだが、犯人は分かっている。
「……ふふ」
声がした。ベッドに寝転んだまま、隠しようのない歯型をどうしたものかと考えていると犯人がやってきたのだ。何故かゆっくり扉を開けて、何故か照れくさそうに口元をもごもごさせて。伏黒が寝転んだままのベッドに向かってくる足も何故かゆっくりで、普段なら騒々しく「おはよ!」と言いながら大股でやってきてはベッドの上にダイブして伏黒を潰すというのに、今日は違う。
たぶん、いや、確実に何かある。五条がもごもごもじもじしている時は緊張している時なのだ。
ベッド脇にきた五条が伏黒の左手を見つめる。
「歯型が隠せなくてお困りかな?」
「……そうですよ。どうすんですかこれ」
横着にも寝転んだまま左手を突き出せば、その手をそっと取られる。その手すら、ちょっと汗ばんでいた。五条の緊張を手のひらから感じて、伏黒にも移る。
「そんな恵さんにね、良い物があるんですよ」
そう言った時、先程から五条の片手がずっと背中に隠されていることに気がついた。不意に津美紀が読んでいた少女漫画を思い出す。幼い津美紀が興奮しながら「あこがれちゃうなぁ」と見せてきたのは、1人の女の子が恋人から指輪を貰う一コマ。前後の文脈も分からず、興味もなかったから適当な相槌を打って流したのだった。
「……」
じわじわと、察する。
「こちらが隠せるアイテム!です!」
じゃーん!と効果音を付けて差し出された背中に隠していた手には、リングケースがあった。五条の大きな手のひらに乗ると少し小さく見えるな、などと関係ないことを浮かべながらも察した通りの展開に呆れるよりも頬に熱が乗る。歯型を隠したかったらこの指輪を付けろなんて、まどろっこしい。素直に渡せばいいのに、それが出来なくて伏黒が寝てる間に歯型を付けるなんて五条らしくない。
いや、これを五条らしくないと思うのは五条をよく知らない大多数だ。思っているよりも五条はベタな恋人らしいことが好きだし、「好き」は言えても「愛してる」は照れくさくてなかなか言えないし、大事な告白をする時にはこういうまどろっこしいワンクッションを置くか本題から逸れた口数がもっと増える。
何も言えずに熱い頬を持て余していると、口元を緩ませた五条が器用にリングケースを片手で開き、中身を伏黒に見せた。
ただただシンプルな、装飾のほとんど無い指輪。任務の邪魔にもならないように、そして伏黒の好みもちゃんと反映したものだった。
頬の熱が一気に全身に回る。五条の緊張と照れがすっかり伝わってしまったのもあるし、サプライズの方法は脇において、単純に喜んでいる。目に見える誓いなんてものに興味はなかったし、今だってそう思ってる。五条との関係は物なんかなくても繋がっていくものだと信じているし、けれども伏黒のそんな価値観を通り越して嬉しいものは、嬉しい。
「顔真っ赤」
「……あ、んただって、赤いでしょうが……」
「……んへへ」
「よ、四十路手前が照れ照れすんな……」
そう返す言葉に力はなかった。身体が熱を持って、噛まれた左手の薬指のじんじんとした痛みを思い出す。これからそこに嵌められる指輪は、きっと心地好い。
畳む
バカップルってこと
伏黒恵25歳、春を迎える少し前。左手を頭上にかざして、ため息を吐き出した。
朝目覚めるなり左手の指に鈍い痛みを感じ、見てみたら歯型が付いていたのだ。左手の薬指。何かと付けられる首元だの胸元だのではなく、なんなら昨夜は同じ布団でただ寝ただけで歯型を付け合うような事をした覚えもない。違和感ばかりだが、犯人は分かっている。
「……ふふ」
声がした。ベッドに寝転んだまま、隠しようのない歯型をどうしたものかと考えていると犯人がやってきたのだ。何故かゆっくり扉を開けて、何故か照れくさそうに口元をもごもごさせて。伏黒が寝転んだままのベッドに向かってくる足も何故かゆっくりで、普段なら騒々しく「おはよ!」と言いながら大股でやってきてはベッドの上にダイブして伏黒を潰すというのに、今日は違う。
たぶん、いや、確実に何かある。五条がもごもごもじもじしている時は緊張している時なのだ。
ベッド脇にきた五条が伏黒の左手を見つめる。
「歯型が隠せなくてお困りかな?」
「……そうですよ。どうすんですかこれ」
横着にも寝転んだまま左手を突き出せば、その手をそっと取られる。その手すら、ちょっと汗ばんでいた。五条の緊張を手のひらから感じて、伏黒にも移る。
「そんな恵さんにね、良い物があるんですよ」
そう言った時、先程から五条の片手がずっと背中に隠されていることに気がついた。不意に津美紀が読んでいた少女漫画を思い出す。幼い津美紀が興奮しながら「あこがれちゃうなぁ」と見せてきたのは、1人の女の子が恋人から指輪を貰う一コマ。前後の文脈も分からず、興味もなかったから適当な相槌を打って流したのだった。
「……」
じわじわと、察する。
「こちらが隠せるアイテム!です!」
じゃーん!と効果音を付けて差し出された背中に隠していた手には、リングケースがあった。五条の大きな手のひらに乗ると少し小さく見えるな、などと関係ないことを浮かべながらも察した通りの展開に呆れるよりも頬に熱が乗る。歯型を隠したかったらこの指輪を付けろなんて、まどろっこしい。素直に渡せばいいのに、それが出来なくて伏黒が寝てる間に歯型を付けるなんて五条らしくない。
いや、これを五条らしくないと思うのは五条をよく知らない大多数だ。思っているよりも五条はベタな恋人らしいことが好きだし、「好き」は言えても「愛してる」は照れくさくてなかなか言えないし、大事な告白をする時にはこういうまどろっこしいワンクッションを置くか本題から逸れた口数がもっと増える。
何も言えずに熱い頬を持て余していると、口元を緩ませた五条が器用にリングケースを片手で開き、中身を伏黒に見せた。
ただただシンプルな、装飾のほとんど無い指輪。任務の邪魔にもならないように、そして伏黒の好みもちゃんと反映したものだった。
頬の熱が一気に全身に回る。五条の緊張と照れがすっかり伝わってしまったのもあるし、サプライズの方法は脇において、単純に喜んでいる。目に見える誓いなんてものに興味はなかったし、今だってそう思ってる。五条との関係は物なんかなくても繋がっていくものだと信じているし、けれども伏黒のそんな価値観を通り越して嬉しいものは、嬉しい。
「顔真っ赤」
「……あ、んただって、赤いでしょうが……」
「……んへへ」
「よ、四十路手前が照れ照れすんな……」
そう返す言葉に力はなかった。身体が熱を持って、噛まれた左手の薬指のじんじんとした痛みを思い出す。これからそこに嵌められる指輪は、きっと心地好い。
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自分用柊英まとめ
僕らに赤い糸は見えない。(鉢雷)
世界はシンプルで、君は案外欲深いもの。(カケシン)