薄明

ごじょうさとる×ふしぐろめぐみ
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過去絵:2020~21 /2022 /2023 /2024 /2025
(最終更新25.6.19)

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小説:忘れ形見/朝露と共に消えていくもの/閑話休題/スリーピングビューティー(R18)/きらきらぼし/明日はソファを買おう。(R18)/「褒めて!」(R18)/愛を知ってしまった僕たちは呪われてしまった/グッバイオールドブルー/麦茶素股(R18)/今日はポイント3倍デー(R18)

SS:お風呂/目隠し/七海と飲み会/弔い/歯型/ひっつき虫in夏/彼岸/向日葵(伏)(五)/夏祭り/隣がいない夜/恵の部屋で(R18)/呼び声/ハンドクリーム/ホットケーキ/薬指/性欲/喧嘩/人魚の夢/こたつみかん/寝正月(R18)/彼シャツトレンカ(R18)/危機感/深爪、ダメ絶対/長い夜/そのくらいの我儘、/モーニングルーティン/知らぬが仏/待ち合わせ/逢いたい/さみしい2人/今際/うなじ/つむじ/私は察しのいい女/セックスの仕方/散髪/プロポーズ/明晰夢/お説教/大人向けコーナー/誘い下手/それって結構愛じゃない?/よしよしわふわふ/盛り上がった朝/愛が重い/ビッグベイビー/ふたごたまご/早寝遅起き/偏頭痛(五)/キュートアグレッション/暑さ対策/自慢したがり/不器用/名前だけの星/フラッシュバック(R18)/エチケット/形の遺るもの/天変地異/酔っ払い/待ちきれないのはお互い様/芽生え/ナンパごっこ/偏頭痛(伏)/かき氷/飴玉スーパーブルームーン/悪い夢/ココア/いんがおうほう/元旦/リベンジ/合わせる顔がない/ご都合呪いに気をつけて(R18)/花束を私から貴方へ/ごじょ誕2024/伏黒恵専用スマホスタンド/子猫の甘噛み/山なし落ちなしむっつりさん/ひとりごと/まんまる虫/香水/リッチな特別コーヒー/パプリカ/反省の弁は要らない/今日はそういう日/つまりは惚れた弱み/僕の恵ってえっちだ/麦茶といたずら/確信犯と横着者/夏の風物詩/小説より奇なり/内緒の話/匂わせ/うたた寝、冷めたコーヒー/はじめての/共に過ごすということ


自分用柊英まとめ

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「殺す気か」
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おさんぽ🍒

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冷めない珈琲
柊英です


「違っていたら怒ってくださいね?」
 そう1つ前置きして柚月は神妙な顔で英知を見た。そんな顔をされてしまえばついついこちらもかしこまってしまうのが人間というもので、英知と柚月だけの会議室で思わず背筋を伸ばした。
 今後のQUELLについて、忙しい柊羽に代わって今日は英知が彼と話し合いをしていたのだがそれがやっと一段落したところだ。肩の力を抜いて、珈琲でも飲みながら一息。のはずだったのだけど。
「…な、何でしょう…」
「そんなかしこまった話ではないんですけど…いや、軽い話でもないんですが…」
 ごくりと生唾を飲み込む音すらやけに大きく響いた。
「英知くんと和泉さん、お付き合いされてますよね?」
「………」
「あっ、違いましたか⁉」
 返事を返せずに黙り込んだ英知に柚月が慌てたように視線を彷徨わせる。手も同じようにあっちこっちへ彷徨わせて。1人ですいませんだとか、やっぱ勘違いですよねだとか、すいませんだとか頭を下げ始めている柚月に英知はただただ、「お付き合い、しております…」としか返せなかった。折角のインスタントコーヒーが手のひらの熱で煮立ってしまうのではないか、なんて。ここは恥じらうところではなく、さっと青ざめるところなのではないかとどこか冷静な頭が言っているが人に指摘されるとやはり恥ずかしいものなのだ。
「あっ、別にばらそうとかそういうことはないんですよ⁉」
「…それは、なんとなく、分かります…」
「よかった…」
「えーっと、俺達そんなに分かりやすかったですか…?」
 幸いなことに珈琲は煮立つことはなく、静かにカップの中にいてくれた。がしかし、一体どこが決め手で知られてしまったのだろうと考えを巡らせれば漸く血の気が引いていくようだった。
 英知の言葉に、柚月がようやっと騒がしく動かしていた手をテーブルに置いた。少しだけ視線を斜め上に持ち上げて、何かを思い出すようにふっと彷徨わせて。
「視線、ですかね。いつだってQUELLの中にはお互いを想いやって慈しむ視線や空気が満ちていますが、英知くんと和泉さんはまたちょっと違うというか……上手くは言い表せないんですけどね」
 そう言ってはにかんだ柚月に一体いつの、どの瞬間を思い浮かべたのかなんて聞けやしなかった。視線、空気、そんなもの自分で意識してどうにかなるもんじゃあない。気をつけないととは当然思うけれど、なんだかこれじゃまるで。
「…オーラで惚気けてるみたいですね…」
「っふふ、言い得て妙、ですね」
 珈琲には英知がどんな顔色をしているかなんて映らないが、柚月が幸せいっぱいなんですねなんて笑うからきっと茹でだこみたいな顔をしているのだろう。
 そりゃそうだ。幸せいっぱいなのだから。

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束の間おかえり、昔の君
 柊英です。多分ピエコロ衣装


「……はぁ、なるほどねぇ……」
「そんなに見ても何も無いぞ」
 慣れない髪型に加えてまじまじと見詰められる居心地の悪さにか、柊羽は視線から逃げるように額を手のひらで隠した。普段見ることの無い柊羽の額は、何だか少しだけ彼を幼く見せる。まだデビューしたての頃は前髪も短かったから、それを思い出すのかもしれない。
「なんかこう、柊羽が若返った?みたいな?」
「なんだそれは」
 戸惑った顔をしていた柊羽がそこでやっと小さく笑う。普段着ることの無いラフなパーカーも大きく晒された額も、ちょっとした居心地の悪さにか困ったように小さく笑う顔も全部が全部英知がよく知らない子供の柊羽みたいで堪らない気持ちになる。愛おしいとは、きっとこのどうしようもなく胸が苦しくなる今のことを言うのだろう。
「ふふ、やっぱおでこ出してる柊羽っていいなぁ」

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優しさの空回り
柊英です


 2人だけで衣装合わせをするのには、今でも少しだけ緊張する。まだまだ色々なものの善し悪しが分からない自分たちは、それが本当に最適解なのか自信を持てないのだ。少しの緊張と不安を抱えながら試着室の中で首を捻る。壱流とのデュエットソング、2人だけというのも特別だし、テーマも独特だ。何を選べば良いのだろう。隣にいる壱流に意見を仰ごうと右側を見ればちらりとジーンズのポケットからストラップが見えた。
「壱流、それ」
「ん?…あー、これ?スマホに付けた」
 ついと壱星が指させば、ポケットから出したスマホを揺らしてみせた。可愛らしくデフォルメされた赤いペンギンが、可愛らしく揺れる。つい先日ロケで水族館に行った英知がくれた物だ。赤と青の可愛いペンギンのストラップと、同じく可愛いペンギンのトートバッグを2つ。ペンギンなんて歳でもないだろうに、なんでかと聞いたら可愛いから!の一言だった。
「じゃあ俺もスマホに付けようかな」
「壱星は大学に持ってってんだっけ?トートバッグ」
「うん。結構便利」
 ロケから帰ってきた英知は妙に上機嫌で、帰ってくるなりお土産!と言って渡してくれたのだったか。
「なんかこれくれた日の英知、機嫌がよかったよね」
「あぁ〜確かに。…まぁ、あれじゃね?」
「柊羽関連?」
「そ」
 スマホをポケットに戻した壱流が、再び用意された衣装に目を通し始めながら呆れたように言う。
「早く言ってくんねーかなぁ〜」
 続くように壱星も目を通しながらそれはそうだと頷く。詮索することでもないしこちらから聞くことでもないし、ただただ待つことしか出来ないのだが、それが少し寂しい。2人なりに考えがあってのことなのだろうけれど。
「いつまでも知らないふりしてるのも、なんかね」
「歯がゆいっつーか」
「後ろめたいというか」
 ロケ先で何があったのかは知らないけれど、上機嫌な英知の理由が何となく察しがつくだけに知らないふりをしているのはなんだか後ろめたい。壱星としては偏見はないつもりだし、壱流もそうだろう。なんだか柊羽も英知も、壱星も壱流も、優しさばかりが先回って遠回りをしている気がする。
「でもま、俺たちで決めたことだしな」
「のんびり待つしかないよね」
 向こうがまだ言わないと決めたように、壱星と壱流も向こうが言い出すまで待つと決めたのだ。
 さて、と壱流が手を打った。
「さっさと衣装決めようぜ。そんで帰りにお土産でも買ってこ」
 ペンギン?と言えば壱流は4人でペンギン揃えるかと笑った。


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見えないルージュの誘惑
柊英です


「…やっぱ逆じゃない?」
「そうか?」
 至極不思議そうに首を僅かに傾げてみせた柊羽は、たとえシーツに押し倒されていようが様になっていた。好きな人をベッドに押し倒しているのだ。男として大層燃え上がる瞬間だろうに、悲しいかな立場が逆転している方が英知の頭ではしっくりきてしまった。慣れとはかくも恐ろしい。
「俺としてはなかなか眼福なんだが」
「いや、それは俺もそうだけど…」
 肘で体を支えながら柊羽の顔を挟んでいるため、随分と距離が近い。いつだかに流行った壁ドン、とは違うが擬似的にそれを体験しているような気持ちになる。
 そもそも何故こんなことになっているのか、現実逃避がてらちょっと振り返ってみれば英知が受け取ったCMの概要が事の始まりだった。
 女性向けの化粧品のCM。真っ赤なルージュを引いた女優を英知がベッドに押し倒し、唇に手を伸ばす。彼女と英知の唇が近づき、アップになり、触れる直前でカメラは止まり、商品名と宣伝文句が流れる。そんな大人な雰囲気が色濃いもの。
 本音を言ってしまえば、自分より柊羽が適任だろうと思わないでもないが、先方は英知がいいと言うのだ。当然やらない出来ないなんて答えはなく、受け取った概要を見ながら自分にこれがこなせるだろうかと考えていたところに、柊羽の奔放な好奇心が飛び出した。「英知に押し倒されたことがないな、そういえば」だなんて。
「…てか、実際どう?俺に押し倒されてみて」
「悪くないな。…だからもう少しだけ、この距離でいたい」
「そう言われちゃうとなぁ」
 柊羽が小さく笑う。
「断れないだろう?」
「よくご存知で。……?」
 不意に柊羽の指が英知の口元へと伸ばされる。かさついた表面をなぞる指をそのままに、言葉を待てば少しだけ眉を下げて柊羽は言った。
「だが、俺以外の人間がこのアングルで英知を見るのかと思うと、少し妬けるな」
「……今言う?」
「っはは、嬉しいリアクションだ」

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愛とは強かに
柊英です


「すまない、英知」
「…あぁ、それ」
 本当に申し訳なさそうな顔で柊羽が見せてきたのは今日発売したばかりの週刊誌だった。派手な見出しでもってゴシップをよく載せている雑誌で、決してイメージがいいわけではないそれ。柊羽に渡されたそれの表紙には、目立つようについ先日クランクアップしたドラマで共演していた女優とのツーショット写真が撮れたとあった。ご丁寧に打ち上げ後の逢瀬か、なんて言葉も添えて。
「珍しいよね、柊羽が撮られるの」
「なるべく2人きりにはならないように気をつけていたんだ。…でも、どこかから撮られた。すまない」
「っていやいや、そんな申し訳なさそうな顔しないでよ!」
 解像度の低いモノクロの写真でも柊羽の顔立ちが綺麗なのがよく分かる。確かに共演した彼女とは似合いのツーショットだ。並ぶと絵になる、お似合いだ。けれど英知にとってはそれだけの話。
「別に疑ってないし不安にもなってないし、そもそもこれ根も葉もない噂でしょ?」
 未だ下がったままの柊羽の眉が、彼の誠実さを物語っている。どうしたって人気や知名度があればそれを餌にありもしない噂を流されるのは当然のことだ。有名税、なんて言われたりもするがまさしくその通り。度が過ぎていたら話は別だが、どこかから写真1枚撮られるくらいで不安になって凹んでいたり気にしていたらきりがない。
「第一、これでもかってくらい柊羽に愛されて大事にされてるのに、今更写真1枚で疑う方が失礼だ」
 英知の言葉に、柊羽が幾度か瞬きしてから小さく息を吐き出した。さっきよりちょっと明るくなった顔で笑う。
「…英知のそういうところが、俺は好きだよ」
「俺も、柊羽のそういう真面目なところが好きだよ」
 そう返してやれば柊羽は敵わないと手にしていた雑誌を近くにあったゴミ箱へと入れた。

 
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夢でも逢えやしない
柊英です


 植物園を貸し切っての撮影。そう雑誌の後ろに載っている編集後記には書いてあった。その文字の通り、雑誌の表紙に起用されていた柊羽は緑の中に凛と立っていたし、ぱらりと捲った中にも緑の中で微笑む柊羽の姿がいくつもあった。本当に、実に絵になる。ただ立っているだけでもう彼はひとつの特別になっていた。
 その雑誌を小脇に抱えて、本来買う予定だったコミックスの新刊を何冊か手に取ってレジへと向かう。この手に取った漫画本がいつ落ち着いて読めるのか、それはちょっと分からないが柊羽の載ったこの雑誌はいの一番に読むに違いなかった。
 
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 僅かな昼休みに本屋に駆け込んだおかげで少しも落ち着いて昼食にはありつけなかったが、その日は珍しく仕事が早めに終わった。と言ってもごく一般的なサラリーマンからしたら随分と遅い帰宅であることに変わりはないのだけど。けれどADとはそういうものだと思うし、この生活が楽しいのだから何も問題も文句もない。
 ただ、それなのに僅かばかり気分が晴れないのはどうしてだろうか。コンビニで買ってきた安い缶ビールと値下げされた惣菜、昼休みに買った雑誌達を疲れた腕で乱雑に置きながら考える。
(まぁ、理由とか分かってるけど)
 自分が和泉柊羽と友人であることが不思議でならない。どうしてこう気軽にメッセージのやりとりができて、会話もできて、時間が合えば食事にだって行けるのだろうか。案外和泉柊羽という人間は見た目に反して気さくで話しやすい。先に声をかけてきたのも向こうからであったし、だからこそ、こうやって柊羽が雑誌の表紙なんかにいると忘れかけていたことを思い出してしまうのだ。
 彼はこうやって植物園を貸し切って雑誌の表紙を飾る人間だし、来週には彼が出演するドラマに番宣もある。どこかのブランドの広告もしていただろうか。
 英知と柊羽は、住んでいる世界があんまりにも違いすぎるのだ。
(…そりゃ、酔いたい日もあるよね)
 元からどうにかなるつもりも、どうにかなれるとも思ってはいなかったが、ふと現実を見てはやり場のない気持ちを持て余していた。友人としても、勝手に想っているにしても、彼はあんまりにも遠い世界の人間だった。

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僕らはまだ子供
柊英です


「それが原作か」
 柊羽の言葉に手元の漫画に落としていた顔を上げる。手にはサンドイッチとおにぎりが乗った皿をそれぞれ持っていて、そこでやっと小腹が空いていたことに気付く。きゅうと小さく鳴った腹の虫が答えだ。
「そう。これを俺が演じるのかと思うとちょっと気恥しいかも。甘酸っぱくて」
 ちらりと読んでいたページを確認してからコミックを閉じれば、少女漫画らしい可愛らしい表紙が顕になる。最近若い子に人気だという少女漫画の実写映画化。その映画の主演、とまではいかないが主人公の女の子の友人役としてオファーされたのだ。英知は彼女と結ばれる役ではないが、それでもこの本の中で広がる人々の世界はちょっと眩しくて気恥しい、けれど懐かしい青春を思い出させる甘酸っぱさがあった。この世界に馴染めるだろうか、そんなことも少しだけ考える。
 手にしていた皿を置いた柊羽が英知からそっと本をさらっていく。柊羽に少女漫画、ミスマッチな組み合わせに小さく笑う。この世には柊羽と組み合わせるにはミスマッチな物が案外多い。シンプルな塩おにぎりに、シンプルなレタスとハムの挟まれたサンドイッチだとか。
 柊羽がこれを用意して来たということは、きっと壱星と壱流もそのうち共有ルームにやってくるだろう。誰かが呼ばなくても自然と小腹が空けばやってくるのだ。
「確かに、眩しいくらいピュアなラブストーリーだな」
「ね。俺こんな青春したことないなぁ。こことかさ、学生の時ちょっと憧れたな」
 ぱらぱらとページを流していた時にふと見えたワンシーン。主人公が雨の日に、好きな彼の差した傘の裏でキスをするのだ。雨の音が全ての音をかき消して、視界を曖昧にして、ちょっと背中が濡れたってそんなことは気にせず傘を傾けて隠れるようにキスをする。まさしく創作の世界でしか見ないようなワンシーンだが、だからこそ少し憧れる。流石にこの歳じゃあ出来ないけれど。
「…なるほど、じゃあ今度雨が降ったら2人で出掛けるか」
「流石に怒られるので駄目です」
「少しくらいは?」
「駄目」
「…手厳しいな」
 本を閉じた柊羽が肩を竦めて笑う。決して本気のやり取りじゃない、ちょっとしたおふざけ。けれどこのやり取りが擽ったくて好きだ。
 すっかり大人になって、やっていい事と悪い事を知ってしまって、出来ることと出来ないことを知ってしまって、だからこそこうやって言葉でおふざけをして遊ぶ。子供みたいで、しかし大人になった証拠のようだった。
「ふふ、いいね。傘に隠れてキスは出来ないけど、こういう会話ができるのって」
 なんだか別の甘酸っぱさがある。そう言えば柊羽はそうだなと笑ってから英知に本を返した。返ってきた表紙では可愛らしい女の子がかっこいい男の子と手を繋いでいた。

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色気より日常
柊英です


「…珍しい。バーなんて」
 それも個室じゃない。そう付け足せば柊羽はひっそりと笑った。
 大学生の頃からお酒を飲む場と言ったら安いチェーン店の居酒屋や、コンビニで買った安い缶チューハイを持ち寄っての宅飲みばかりだった。決してバーに行ったことがないわけではないけれど、柊羽に連れられてやってきたそこは少し慣れなくて落ち着かない。
 1番奥のカウンター席に腰掛けた柊羽を少し意外に思いながら、その隣に腰掛ければ目尻に消えない皺が刻まれ始めた初老のバーテンダーがそっと目の前に水を置いた。何を頼めばいいのか、それすら分からなくなりそうだった。
「前に来た時、雰囲気を気に入ったんだ。…珍しく2人して夜の予定が空いただろう?たまにはゆっくり飲むのも悪くないと思った」
「なるほど…っても、あんまりこういうとこ来たことないから、ちょっと緊張する」
「別に普段通りでいい」
「簡単に言うけどそれが難しいんだよ」
 柊羽が片手を上げてバーテンダーを呼び、ノンアルコールカクテルを頼む姿は何かのワンシーンを切り取ったように様になる。きっと自分じゃあこうはいかない。
「英知は?」
「柊羽と同じので」
 いつからか、気にせず酒を飲んだらいいのにと言われなくなった。それが諦めとかではないのを知っているから、時折あるこのやり取りが英知は存外に好きだ。
 静かに下がっていったバーテンダーを見送ってから口を開けば、自然となんてことない会話が始まる。ちょっとくらい雰囲気に合わせた普段じゃしないような甘い会話でも出来たらよかったのだろうけれど、あいにく英知はそんな簡単に上手で綺麗な言葉が出る人間ではなかった。
「そういえばこの間ロケ先で紫陽花が咲いてるのを見たんだよね」
「もうそんな季節か」
「あっという間だよねぇ。ちょっと前まで桜が咲いてたのに、もう紫陽花が咲く季節だもん」
 しとしとと濡れた空気によく似合う紫陽花は、雨続きで憂鬱になる気分を明るくしてくれる。洗濯物が乾かなくても、湿気で髪の毛が好き放題に跳ねてても、折りたたみじゃない傘が荷物になっても。それにちょっとだけ、なんだか青い紫陽花は自分たちのグループカラーにも似合う気がして。
「…ねぇ、柊羽」
「ん?」
「今日は何時まで飲む?俺は明日オフなんだけど」
 英知の言葉に柊羽の瞳が僅かに細められた。仕事の予定はそれぞれ共有しているけれど、敢えて声にして言うことに意味があるのだ。
 そうだなあとわざとらしい間を開けた柊羽の前に注文したカクテルが運ばれる。同時に、英知の目の前にも。
「英知が望むまで、かな」
 しかし自分たちは大人な誘いがさらりと出来るほどまだまだ出来ちゃいない。柊羽がやれば勿論絵になるけれど。
「…じゃあたまには朝帰りして紫陽花でも探しに行こうよ。俺たちみたいな色したやつ」
「っはは、それはいい。朝露が光って綺麗だろうな」
「それで朝帰りしてイッチーとイッセーに叱られる」
「言い訳は?」
「飲みすぎた!」

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6月8日364日前
柊英です


柊英botのネタを使ってるのでbotのツイートを以下に一部掲載します。


「壱星と壱流は?」
「寝ちゃった。明日は朝からロケなんだって」
「あぁ…そういえばそうだったな」
 共有スケジュールを頭の中で開いて思い浮かべれば、2人は揃ってのロケで英知は夕方からラジオの収録。そして、自分だけ終日オフ。
「そんで俺はさ、明日は夕方からじゃない?」
「…そうだな」
「さて、そこで」
「…そこで?」
「そこで」
 隣に腰かけた英知が少し目線を泳がせて、誤魔化すように間を埋めるように身体を左右に揺らす。少し忙しない様子に頭の中で疑問符を浮かべていれば、相変わらず柊羽と視線はかち合わないままほんのりと赤い頬で言った。
「ここからは、まぁなんていうか、後夜祭、的な」

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「……」
「…ちょっと、黙られちゃうと困るんですけど」
「…いや、なんというか、」
 英知のあちらこちらにさまよった視線を思い出して、柊羽と目を合わせないように顔ごと視線を正面に向けていた赤い頬を思い出す。これで後夜祭の意味が分からないほど柊羽は子供でもないし、初心でもない。だからちょっと呆けてしまった。
「可愛らしい、誘いだと思って」
「っ、か、わいくは、ないと思うけど」
 少し口を尖らせた英知が柊羽を横目でじとりと見やる。その視線には誘いに乗るのか乗らないのか、どっちなのか早く答えをくれと書いてあるようだった。そんなもの、聞かれなくたって分かっているだろうに。
 英知の赤く熱い頬を指先でつつけば、ゆっくりと顔がこちらに向く。リビングの照明が反射してきらきらと光る英知の瞳は心なしか照れだけではない熱を持っている気がして。きっと、柊羽も同じなのだろうけれど。
「もちろん、後夜祭も楽しませてもらおうかな」
 柊羽の分かりきっていた言葉に英知の目が僅かに緩む。
「…ねぇ柊羽」
「うん?」
「誕生日、おめでとう。後夜祭始まったら言えなくなっちゃうから」
「っふふ、ありがとう英知」
 間近に9日が迫ろうとしていた。柊羽だけの特別な日が過ぎ去ろうとしていた。
「…明日は俺が朝食を作るよ」
「2人にはなんて誤魔化すのさ」
「ちょっと寝坊してる、とでも言っておく」
「雑だなぁ」
 英知が少し眉を下げて呆れたように笑う。けれど止めはしないのだから、それでいい。
「それで、俺が2人を見送ったらベッドに帰ってくるから英知とベッドの上で朝食を食べる。行儀が悪いがまぁ許されるだろう。食べ終わったら英知が仕事に行くまでだらだらと喋って、時折うたた寝でもしよう。……それから」
「ん?」
 ほんの少しの会話をしている間に時計の針はてっぺんを過ぎ去って6月8日は365日後へと遠のいてしまっていた。けれどまだ特別な日は続いている。
「…本当にありがとう、最高のプレゼントを壱星と壱流と、英知からもらったよ」


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ファンファーレと花束
柊英です


「面白いね、この話」
 そう言って台本をぱらぱらと覗いていた英知が顔を上げた。最後の結末を見ることなく残して閉じられた台本が柊羽へと返される。
 来年の春に公開される柊羽が主演を演じることとなった映画作品。その台本がつい先日渡されたのだ。初めて映画の主演に抜擢された男の苦労や努力を描く、ドキュメンタリーのようなフィクション。映画を観ながらも、映画が作られていく過程を主人公と共に追う構成となっていた。
「ラストはいいのか?」
「うん。見ちゃったらつまらないじゃない」
「観に来てくれるのか」
 柊羽の言葉に勿論と返した英知は台本で読んだシーンを瞼の裏で再生するかのように目を閉じた。英知の中の劇場でゆっくりとシーンを再生するように、立てられた英知の右手の人差し指がくるくると回る。
「柊羽が主演おめでとうって恋人から花束を受け取るシーン」
「序盤の」
「そう。きっと絵になるんだろうなぁって思って」
 夢から醒めるように瞼を持ち上げた英知が柊羽を見る。
「なんだか俺も同じことしたくなっちゃった」
「…いつでもしてくれて構わないが?」
「次に主演が決まったらね?」
「はは、それは頑張らないとだ」
 きっと柊羽ならすぐ勝ち取れるよ。そう言ってから英知は映画の時間と休みを合わせなきゃと笑った。久しぶりのデートは映画にしよう、と。

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春日和
柊英です


「今日はいい天気だ」
 ここ数日続いた雨がやっと落ち着き、開け放した自室の窓の向こうには真っ青な空が広がる。晴れ晴れとした、春らしい空だ。こうも素敵な晴れ間が覗けば、暖かい太陽に洗濯物を乾かしてもらいたくなるし、ちょっと近くの公園まで散歩にだって行きたくなるし、日向ぼっこだってしたくなる。そう、今日の英知は運のいいことに終日オフなのだ。
 早起きは三文の徳、というけれど今朝はまさしくその通りだ。
「もう起きていたのか」
「柊羽、おはよ」
「相変わらずオフでも朝が早いな」
 朝食の準備をする前に少しくらい、と朝日の中で贅沢な時間を過ごしていると陽射しに呼ばれて柊羽が目を覚ます。昨夜、月明かり越しに見た時とはまるで違う。常より少しだけぼんやりとした寝起きの柊羽を見て、そう思う。これもまた、贅沢な瞬間だ。
「朝日が俺を呼んでた、なんちゃって」
「じゃあ俺は、朝日を背負った英知に呼ばれたんだな」
 ベッドから起き出した柊羽が、目を細めた。透明な光を吸い込んできらきらと瞬く柊羽の瞳と、春を呼ぶ真っ青な空、吹き込む風は少し寒さを残しているけれど確かに暖かさがあった。今日は最高のオフになる。そんな確信に英知は胸を踊らせた。

 
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