薄明
ごじょうさとる×ふしぐろめぐみ
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小説[107件](8ページ目)
飴玉スーパーブルームーン
月が綺麗ですね、とは恐らく最も知られた洒落てる愛の告白だ。日本人ならもっと奥ゆかしく愛の告白をする、なんて理由でこの洒落た翻訳が生まれたらしい。
良い子はそろそろ寝る時間、伏黒の任務の付き添いを終えた五条にとっては帰宅時間だ。街灯に煌々と照らされていても今夜の月は何時になく大きく丸く存在を主張していた。出歩く人もいない2人だけの夜更け、やけにでかい月、これは意外といい雰囲気というやつで日本人らしい奥ゆかしい告白が映えるのではないかと五条は月を指差しながら隣にいる伏黒に声をかけた。
「ね、恵」
「月が綺麗ですね、とか言いたいんですか」
「……」
出鼻をくじかれてむぅ、と口を尖らせた五条に伏黒が口角だけを持ち上げて「図星」と笑った。
「つまんないの」
「ベタすぎですって」
言いながら制服のポケットに手を突っ込んだ伏黒が、中から黄色くて丸い飴玉を取り出した。大ぶりで表面にざらめが付いているそれを五条に差し出しながら今度は伏黒が月を指差す。
「俺からプレゼントです」
「…いやこれ貰ったはいいけど食べないからって僕に回したよね?」
「そこは「綺麗な月をありがとう」とかなんとか言って大人しく食べてくださいよ。ちなみに虎杖から貰ったやつです」
「えぇ…」
こんなの悠仁が知ったら泣いちゃうよ、と言いながら飴玉を受け取れば、大体察してるから平気ですよ、なんて返される。理解のある学友で何よりだと飴玉の個装を剥がし口に放り込めば荒いざらめが口の中を引っかいた。ざらざらして、1度口に入れたらある程度溶けるまで喋れなくなる大玉の飴は昔から変わらない甘さだ。まだ伏黒が小さかった時、同じ飴を食べてほっぺたを飴玉の形に丸く膨らませていたのを思い出す。
あの頃はその子供に月が綺麗ですねだとか言ってみたくなるとは思ってもいなかった。ましてや人からの貰い物だとしても、月に見立てた飴玉をくれるとも。この会話の流れで。
「…ふぇふみ」
「はい?」
口内の大部分を占める飴玉のせいでまともに呼べなかったが、呼ぶとしたら横にいる伏黒しかいない。こちらを振り向いた伏黒が五条の丸く膨らんだ頬を見てまた小さく笑った。
月を指差し、自分の頬を指差し、最後に伏黒を指差す。
「あいのふぉくはく?」
「…何言ってんのか分かりませんよ」
五条の言葉をあしらうように手を軽く降り、少し早足になった伏黒の耳は僅かに赤い。大きくて丸い月が街灯よりもよくそれを教えてくれた。これは虎杖に感謝しないといけないかな、などと思いながら数歩先を歩き出した伏黒の後を五条は追いかけた。
畳む
月が綺麗ですね、とは恐らく最も知られた洒落てる愛の告白だ。日本人ならもっと奥ゆかしく愛の告白をする、なんて理由でこの洒落た翻訳が生まれたらしい。
良い子はそろそろ寝る時間、伏黒の任務の付き添いを終えた五条にとっては帰宅時間だ。街灯に煌々と照らされていても今夜の月は何時になく大きく丸く存在を主張していた。出歩く人もいない2人だけの夜更け、やけにでかい月、これは意外といい雰囲気というやつで日本人らしい奥ゆかしい告白が映えるのではないかと五条は月を指差しながら隣にいる伏黒に声をかけた。
「ね、恵」
「月が綺麗ですね、とか言いたいんですか」
「……」
出鼻をくじかれてむぅ、と口を尖らせた五条に伏黒が口角だけを持ち上げて「図星」と笑った。
「つまんないの」
「ベタすぎですって」
言いながら制服のポケットに手を突っ込んだ伏黒が、中から黄色くて丸い飴玉を取り出した。大ぶりで表面にざらめが付いているそれを五条に差し出しながら今度は伏黒が月を指差す。
「俺からプレゼントです」
「…いやこれ貰ったはいいけど食べないからって僕に回したよね?」
「そこは「綺麗な月をありがとう」とかなんとか言って大人しく食べてくださいよ。ちなみに虎杖から貰ったやつです」
「えぇ…」
こんなの悠仁が知ったら泣いちゃうよ、と言いながら飴玉を受け取れば、大体察してるから平気ですよ、なんて返される。理解のある学友で何よりだと飴玉の個装を剥がし口に放り込めば荒いざらめが口の中を引っかいた。ざらざらして、1度口に入れたらある程度溶けるまで喋れなくなる大玉の飴は昔から変わらない甘さだ。まだ伏黒が小さかった時、同じ飴を食べてほっぺたを飴玉の形に丸く膨らませていたのを思い出す。
あの頃はその子供に月が綺麗ですねだとか言ってみたくなるとは思ってもいなかった。ましてや人からの貰い物だとしても、月に見立てた飴玉をくれるとも。この会話の流れで。
「…ふぇふみ」
「はい?」
口内の大部分を占める飴玉のせいでまともに呼べなかったが、呼ぶとしたら横にいる伏黒しかいない。こちらを振り向いた伏黒が五条の丸く膨らんだ頬を見てまた小さく笑った。
月を指差し、自分の頬を指差し、最後に伏黒を指差す。
「あいのふぉくはく?」
「…何言ってんのか分かりませんよ」
五条の言葉をあしらうように手を軽く降り、少し早足になった伏黒の耳は僅かに赤い。大きくて丸い月が街灯よりもよくそれを教えてくれた。これは虎杖に感謝しないといけないかな、などと思いながら数歩先を歩き出した伏黒の後を五条は追いかけた。
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今やすっかり成長して頬の丸さもなくなってしまった伏黒だが、そんな彼にも当然幼い頃はあった。
1度だけ、そんな小さな伏黒に我儘を言って一緒にお風呂に入ったことがある。まだ小学生、それも1年か2年そこらの子供だった伏黒は五条の我儘を突っ撥ねることが出来なかった。それをいい事にちょっとした悪ふざけ半分、普段接することの無い子供への興味半分で持ちかけたのだ。
安くてボロいアパートの浴室は五条の暮らす家と比べたら驚く程狭かった。小さな2人にとってはこれで丁度いいのかもしれないが、五条が入るには随分と窮屈だ。天井だってそう高くなくて、ぐっと手を伸ばしてしまえば届いたかもしれない。
浴室でこれなのだから湯船なんてもっと狭くて、五条が先に浸かれば張られた湯が半分ほど溢れ出た。中で体育座りをした五条の上半身は殆どはみ出てしまったし曲げた膝だって飛び出している。これじゃあ冬場は寒いだろうなと思いながら未だに湯船を前に立ち尽くしている伏黒を手招けば、ずっと小さな口をきゅっと閉じていたのをやっと開いて「どこに入るんだよ」と言ったのだった。
「ここ。乗っかっていいからさ」
体育座りしている膝と身体の隙間を指させば、伏黒はそれはもう嫌な顔をした。未だ警戒心の強い猫のようにそこに立つ姿に1度笑って、腕を伸ばした。狭い浴室では立ち上がらなくてもちょっと頑張って腕を伸ばすだけで簡単に伏黒の身体に手が届く。逃げようとする前に持ち上げて無理やりに五条の身体の前に降ろしてしまえば、それは意外と上手く収まった。幼くて、小さくて、柔らかい背中がどこか緊張した風に強ばって五条の胸に触れる。
五条がちょっと腕に力を込めたら潰れてしまいそうな身体に、持ち上げられた時に咄嗟に縋るように伸ばされた小さな手に、暖かい浴室にいたからかうっすらと赤くなっていた頬に。それらを見て、胸が柔らかく締め付けられる感覚がしたのは何故だろうか。愛しいと、思ってしまったのは何故だろうか。
「なーんて事もあったよね」
「……ないですね」
「いやあったよ」
果たして何年ぶりだろうか、再び五条は伏黒に我儘を言い一緒にお風呂に入ろうと駄々を捏ねた。残念ながらしっかりと断ることが出来るように大きく成長してしまった伏黒は頷いてはくれなかったので、1人で浴室へと向かったのだけど。
五条に合わせた十分に大きな浴室はとてもあのアパートのものとは似ても似つかないが、たった1度のお風呂の思い出を振り返るには十分だった。
「あの頃の恵も、可愛かったよね」
その頃の話をすると彼は眉間に皺を寄せて嫌そうな顔をするのだけど、敢えてその顔を見るのもまた一興というものだ。
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