薄明
ごじょうさとる×ふしぐろめぐみ
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内緒の話
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その日は9月の半ばにしてはやけに暑い日だった。
津美紀と暮らしていたオンボロの安アパートじゃクーラーなんてものはなくて、学校から帰って一番にすることと言ったら窓を開け放して扇風機を回すこと。その日、津美紀は委員会で少し帰りが遅く、俺が先に帰っていつ壊れてもおかしくない扇風機を回して籠った熱気が薄まるのを待っていた。蝉の鳴き声はもうしない、静かで暑い日。
「あれ、津美紀は?」
「…ノック」
「それ言うならちゃんと鍵閉めな」
インターホンなんてものもなかったあのアパートで来客を知らせるものといったらノックしかなかったが、五条さんはいつも無断で入ってくる。合鍵を持っているから俺が鍵を閉めたって意味なんてないのだけど、帰宅して一番に鍵を閉めなかったのは自分なので黙った。
「んで、津美紀どうしたの?」
「委員会。少し帰り遅くなるって」
「へぇ、子供でも仕事なんて大変だねぇ」
「ていうか、何しにきたんですか」
「息抜き。疲れたの」
言うなり人の家の床に寝そべった五条さんは「津美紀帰ってきたら起こして」と言い残してサングラスを外した。それをちゃぶ台の上に適当に放り投げて、目を閉じて寝る体勢に入るもんだから邪魔だとどかそうとしたけれど小さかった俺じゃ大きな五条さんの身体はびくともしなかった。たまに意味もなく俺たちの暮らす家にやってきては、稽古や任務に連れて行くでもなくただ構い倒して帰っていく。数時間もしないで帰る時もあれば1泊していく時もあって、多分幼い頃の俺と津美紀にとってこの頃の五条さんは凄い人だとかそんなイメージはあまりなかった。
この日も例に漏れず意味もなくやってきた五条さんは本当に疲れていたようで、広くもないアパートの一室で遠慮なく足を伸ばして寝始めた。布団もクッションも何も無い、ただの畳の上で寝こける五条さんに、俺は内心緊張していた。
少し前に五条さんが半年くらい家に来なかった時期があった。お金だけは五条さんと一緒に仕事をしているという疲れた顔をした男の人が持ってきてくれたけれど、姿はとんと見えなくなって連絡も途絶えた。お金を持ってきてくれる人に聞いてみても仕事が立て込んでいるとしか教えてくれなくて、最初は本当に忙しいんだなと納得していたけれど半年も経つ頃にはまた捨てられたのだと気持ちに整理をつけ始めていた。が、急に人の家にやってきた五条さんは本当に忙しすぎて顔を見せれなかっただけらしく、海外に行ってただとか寝る暇もなかっただとか半年分の苦労を語るだけ語った末に俺にこう言った。
「ごめんって、捨てたりしないからむくれないでよ」
この出来事が、たぶん、俺の恋の気付きというやつだ。捨てられたのが悲しくて、本当は一緒にいたくて、会えたのが嬉しくて、そういう気持ちはきっと恋の中にある。そんな気付きから少しして津美紀が少女漫画にハマって、自分がドキドキしたシーンなんかを見せてくるから余計に俺の中では恋というものの存在が大きくなっていた。この頃はたぶんまだ恋はきらきらしたものだと漫画から刷り込まれていた。それから恋なんて捨てたくなるようになるのは別の話だし、その捨てたい恋が報われるのも一先ず別の話だ。
そんなわけで恋に気付いてしまった俺は、目の前で寝こける五条さんにどきどきしていた。津美紀が読んでいた漫画で見たキスというものが頭をよぎって、それが好き合っている人間同士がするものだとは分かっていても好奇心と初めての恋に浮かれる気持ちとは無敵なもので。
「………寝てる」
ちょん、と五条さんの頬をつついてみても綺麗に閉じられた瞼はぴくりとも動かない。思い切って揺すってみても起きる気配はなくて、扇風機の音すら聞こえないほど心臓がうるさく鳴り始める。
五条さんの顔の横で小さく身体を丸めて、全身の血がお湯になったんじゃないかってくらい熱くて、ゆっくり近づいて、ちょん、と触れた唇は柔らかかった。
時間にして1秒に満たないくらい。慌てて離れたけれど、五条さんはそのまま起きる気配はなかった。実は起きてたらどうしようだとか、どこかでバレたらどうしようだとか、色んなことが頭をよぎって、その日の晩御飯は味がしなかった。
「…ねぇ、ちゅーすんなら起きてる時にしてよ」
「起きてたんですか」
眉間に皺を寄せて瞼を持ち上げた五条さんはむくれたように口を尖らせた。どうやらずっと起きていたらしい。布団の中でもぞもぞと動いて向き直った五条さんが、俺の頬に手を寄せる。今度は起きてる状態の五条さんにしろということか。
「この間も寝てる僕にしてたでしょ」
「しましたね」
「起きてる時にしてよ」
「…善処します」
善処じゃなくってさぁ!と騒ぎそうな口にちょんと自分の唇を触れさせて黙らせる。この間もなにも、実は寝てる五条さんに遭遇する度に毎回しているのだが、バレるかバレないかは半々というところだ。6日前にソファで寝落ちていた五条さんにしたのはバレていないらしい。
趣味、というわけではないが寝てる五条さんにキスをするのは密かな楽しみというか、初心に戻れるというか、なんにせよ気に入っているのだ。普段はうるさかったりいじわるだったりいやらしかったりする五条さんの唇は、寝てる間はただ柔らかいだけ。その柔らかさに昔みたいにどきどきするのは、五条さんにはずっと内緒の別の話だ。
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2025.09.14 20:01:20
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その日は9月の半ばにしてはやけに暑い日だった。
津美紀と暮らしていたオンボロの安アパートじゃクーラーなんてものはなくて、学校から帰って一番にすることと言ったら窓を開け放して扇風機を回すこと。その日、津美紀は委員会で少し帰りが遅く、俺が先に帰っていつ壊れてもおかしくない扇風機を回して籠った熱気が薄まるのを待っていた。蝉の鳴き声はもうしない、静かで暑い日。
「あれ、津美紀は?」
「…ノック」
「それ言うならちゃんと鍵閉めな」
インターホンなんてものもなかったあのアパートで来客を知らせるものといったらノックしかなかったが、五条さんはいつも無断で入ってくる。合鍵を持っているから俺が鍵を閉めたって意味なんてないのだけど、帰宅して一番に鍵を閉めなかったのは自分なので黙った。
「んで、津美紀どうしたの?」
「委員会。少し帰り遅くなるって」
「へぇ、子供でも仕事なんて大変だねぇ」
「ていうか、何しにきたんですか」
「息抜き。疲れたの」
言うなり人の家の床に寝そべった五条さんは「津美紀帰ってきたら起こして」と言い残してサングラスを外した。それをちゃぶ台の上に適当に放り投げて、目を閉じて寝る体勢に入るもんだから邪魔だとどかそうとしたけれど小さかった俺じゃ大きな五条さんの身体はびくともしなかった。たまに意味もなく俺たちの暮らす家にやってきては、稽古や任務に連れて行くでもなくただ構い倒して帰っていく。数時間もしないで帰る時もあれば1泊していく時もあって、多分幼い頃の俺と津美紀にとってこの頃の五条さんは凄い人だとかそんなイメージはあまりなかった。
この日も例に漏れず意味もなくやってきた五条さんは本当に疲れていたようで、広くもないアパートの一室で遠慮なく足を伸ばして寝始めた。布団もクッションも何も無い、ただの畳の上で寝こける五条さんに、俺は内心緊張していた。
少し前に五条さんが半年くらい家に来なかった時期があった。お金だけは五条さんと一緒に仕事をしているという疲れた顔をした男の人が持ってきてくれたけれど、姿はとんと見えなくなって連絡も途絶えた。お金を持ってきてくれる人に聞いてみても仕事が立て込んでいるとしか教えてくれなくて、最初は本当に忙しいんだなと納得していたけれど半年も経つ頃にはまた捨てられたのだと気持ちに整理をつけ始めていた。が、急に人の家にやってきた五条さんは本当に忙しすぎて顔を見せれなかっただけらしく、海外に行ってただとか寝る暇もなかっただとか半年分の苦労を語るだけ語った末に俺にこう言った。
「ごめんって、捨てたりしないからむくれないでよ」
この出来事が、たぶん、俺の恋の気付きというやつだ。捨てられたのが悲しくて、本当は一緒にいたくて、会えたのが嬉しくて、そういう気持ちはきっと恋の中にある。そんな気付きから少しして津美紀が少女漫画にハマって、自分がドキドキしたシーンなんかを見せてくるから余計に俺の中では恋というものの存在が大きくなっていた。この頃はたぶんまだ恋はきらきらしたものだと漫画から刷り込まれていた。それから恋なんて捨てたくなるようになるのは別の話だし、その捨てたい恋が報われるのも一先ず別の話だ。
そんなわけで恋に気付いてしまった俺は、目の前で寝こける五条さんにどきどきしていた。津美紀が読んでいた漫画で見たキスというものが頭をよぎって、それが好き合っている人間同士がするものだとは分かっていても好奇心と初めての恋に浮かれる気持ちとは無敵なもので。
「………寝てる」
ちょん、と五条さんの頬をつついてみても綺麗に閉じられた瞼はぴくりとも動かない。思い切って揺すってみても起きる気配はなくて、扇風機の音すら聞こえないほど心臓がうるさく鳴り始める。
五条さんの顔の横で小さく身体を丸めて、全身の血がお湯になったんじゃないかってくらい熱くて、ゆっくり近づいて、ちょん、と触れた唇は柔らかかった。
時間にして1秒に満たないくらい。慌てて離れたけれど、五条さんはそのまま起きる気配はなかった。実は起きてたらどうしようだとか、どこかでバレたらどうしようだとか、色んなことが頭をよぎって、その日の晩御飯は味がしなかった。
「…ねぇ、ちゅーすんなら起きてる時にしてよ」
「起きてたんですか」
眉間に皺を寄せて瞼を持ち上げた五条さんはむくれたように口を尖らせた。どうやらずっと起きていたらしい。布団の中でもぞもぞと動いて向き直った五条さんが、俺の頬に手を寄せる。今度は起きてる状態の五条さんにしろということか。
「この間も寝てる僕にしてたでしょ」
「しましたね」
「起きてる時にしてよ」
「…善処します」
善処じゃなくってさぁ!と騒ぎそうな口にちょんと自分の唇を触れさせて黙らせる。この間もなにも、実は寝てる五条さんに遭遇する度に毎回しているのだが、バレるかバレないかは半々というところだ。6日前にソファで寝落ちていた五条さんにしたのはバレていないらしい。
趣味、というわけではないが寝てる五条さんにキスをするのは密かな楽しみというか、初心に戻れるというか、なんにせよ気に入っているのだ。普段はうるさかったりいじわるだったりいやらしかったりする五条さんの唇は、寝てる間はただ柔らかいだけ。その柔らかさに昔みたいにどきどきするのは、五条さんにはずっと内緒の別の話だ。
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