薄明

ごじょうさとる×ふしぐろめぐみ
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匂わせ


「あれ?」
 任務に向かう道でふと立ち止まった虎杖が不思議そうに首を傾げる。なんだ?と言いながら伏黒の周りをぐるりと1周歩いて、もう一度首を捻った。
「…おい、」
 早く向かうぞ、と言いかけたところでぱちんと虎杖が指を鳴らした。
「シャンプー変えた!?」
 違和感の答えを見つけ、ぱっと顔を明るくした虎杖には一つも悪気はない。ただただ風に乗って流れてきた香りがいつもと違うからなんだろうと不思議に思っただけ。なのだけど。
「…………」
 実際昨夜の伏黒はいつもと違うシャンプーを使ったし、なんならコンディショナーも使った。使ったというか、使わされたというか。ドラッグストアでセールになっていたよく分からないメーカーの安いシャンプーじゃなくて、よく分からないメーカーのボトルから高級感の漂う香りもすごくいい高そうなシャンプーとコンディショナー。つまるところ有り体にざっくり言ってしまえば、昨夜は五条の部屋に泊まりに行っていて、一緒に風呂に入らされた。一応抵抗はしたのだが、五条相手に抵抗なんて意味はない。
「伏黒?」
「……いや、まあ、そんなのはどうでもいいだろ」
「そ?めっちゃ怖い顔してるけど」
「元々こんな顔だ」
 にしてもめっちゃ良い匂いすんね、と言う虎杖を置いて足早に任務先に向かう。きっと、こうして歩いている間にも風に乗って高級シャンプーの香りは伏黒から漂っているのだろう。爽やかで、でも少し甘い、五条が好きそうで伏黒が嫌がらなそうな香りが。

___

「…なんか匂うな」
「いい香りでしょ」
 窓から吹き込む風に乗って五条から漂ってきた香りに、家入が少し眉根を寄せる。任務先で怪我をしたという釘崎の様子を見に保健室へやってきたのだが、ベッド脇に腰掛けて治療を受けていた釘崎も家入と同じような顔をした。
「…なにこれ、あま」
「そ、甘いけど爽やかでいいでしょ」
 家入も釘崎も「いいでしょ」という言葉に同意は示さずに、お互いと視線を合わせる。女の勘ってやつかもしれない。
「…お前、こんなの普段使ってないだろ」
「まぁね。香り強いの好きじゃないし」
「匂わせする男は嫌われるわよ」
 ふわふわと髪から漂うのは、少し前に買ったお高いシャンプーの香り。どこのメーカーのかは知らないけれど、香りと持続時間だけで選んだそれは中々悪くない。買ったのは少し前だけど、使ったのは昨夜が初めて。何故なら、このシャンプーは伏黒の為に買ったからだ。
 昨夜、伏黒が五条の部屋に泊まりにきた。ただ何をするでもなくゆっくり過ごしていたけれど、このシャンプーの存在を思い出して渋い顔をする伏黒を風呂場に連れて行った。変に身構える伏黒をむっつりだとからかいながらくせっ毛を洗ってあげて、ケアもしてあげて、2人で湯船に浸かって、おしまい。伏黒が身構えてたようなことは何一つしないまま2人で布団にもぐりこんで、お揃いのいい香りで眠りについたのだ。
「匂わせじゃなくて、お揃いって言ってよ。微笑ましいでしょ」
「匂いでやるとか趣味悪〜」
 釘崎が風に乗ってくる香りを振り払うように顔の前で手を振る。何も言わないけれど、たぶん家入も同じ感想だ。
 2人でゆっくり過ごせたのは随分と久しぶりで、言葉にしないだけで伏黒も浮かれていたようだったから玄関先で別れる時も同じ香りを纏っていることを気にした様子はなかった。けれど今日は虎杖と任務だと言っていたし、朝から向かっていた筈だから何事もなければそろそろ戻ってくる時間。流石にもう意味に気付いているだろう。怒るかな、1番に照れ隠しのパンチが飛んでくるかも。どれがきても可愛いことには変わりがないので、釘崎の無事を改めて確認してから保健室を出た。お揃いの香りを纏う伏黒を出迎えてあげるのだ。
畳む

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