薄明

ごじょうさとる×ふしぐろめぐみ
 非公式二次創作ブログサイト

メイン

幾年昔の自分へ
柊英です


「英知」
 名前を呼ばれて振り向けば、お得用コーナーの前で柊羽が立ち止まっていた。眼鏡にマスクをしていたって柊羽にはミスマッチなそこには、英知が長いこと愛用している薬用リップが売られていた。なるほど、柊羽が声を掛けてきたのはそういうことだったのだ。しかし安物のリップを持っている柊羽はやっぱり似合ってないけれど。
「俺が愛用してるやつ!ありがとう、よく分かったね?」
 ああそういえば今使っているので最後だったなと思い出して、柊羽が差し出してくれたそれを受け取って買い物かごへと落とす。
「いつも持ち歩いているだろう。見覚えがあったんだ」
 ADの時より収入は増えた筈なのだからもっと良いものを使ってもいいのだけど、変えるタイミングもないまま今でも同じものを使っている。3本セットのお得用でたまに特売品として殊更安く売られているそれは、大昔にとりあえず荒れた唇をどうにかするために買った日から変わらないデザインでそこにあった。効果がどうとかそういうことは考えていないのだけど、昔と変わらないそれを使っていると、今がどんなに昔の自分が想像もしなかった未来なのだとしても、夢じゃない気がする。今がしっかり過去と繋がった地続きの未来なのだと思える気がするのだ。1つでも変わらないものが身近にある、それはちょっとした安心感になる。
「そっかぁ、なんか嬉しいな」
「嬉しい?」
「なんか俺が使ってるものを柊羽が知っててくれてたのが嬉しい、というか…なんだろ、俺が好きなものを柊羽が知っててくれて嬉しい、みたいな感じ」
 眼鏡の奥で柊羽がぱちりと瞬きをして、それから擽ったそうに笑う。
「前に英知が壱星と壱流に言っていただろう。2人の好きなものを探すのは宝探しみたいで楽しい、と。俺もそれと同じように英知が好きなものや愛してるものを探すのが楽しいんだ」
 英知が愛してるものを、俺も一緒に愛せたらいいなと思うんだよ。そう言って柊羽は英知の手からかごを奪うと、言葉を返せずにいる英知をその場に置いてレジへと歩き出してしまった。そんなの俺だって!そう叫び出しそうになるのを堪えてから柊羽の後を追えば、今にも会計が始まりそうなかごの中には柊羽が見つけてくれた英知が愛用するお得用リップと、英知が見つけた柊羽が気に入っているハンドクリームが転がっていた。
 
畳む

編集

Powered by てがろぐ Ver 4.2.0.