薄明

ごじょうさとる×ふしぐろめぐみ
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アコンプリス
柊英です


「いい歌だと思う。でも、歌ったらいけないとも思う」
 静かにイヤホンを外して柊羽に告げれば、大して驚いた顔もしないで緩く首を傾げた。英知がこう言うことを分かっていたみたいに。
 柊羽から渡されたデモはメロディーも詩も確かに柊羽らしい。けれど今までQUELLとして歌ってはこなかった歌だった。しかし聴きながら歌詞を咀嚼していく程に、これは2人で歌ってはいけないと一番に思ったのだ。
「…これ、俺と柊羽の歌でしょ?こんなの、…歌えないよ。あまりにも俺たちの関係を形にしすぎてる」
「英知」
 デモ音源の入ったプレーヤーと同時に渡された歌詞カードを指差しながら言えば柊羽は静かに英知の名前を呼んだ。静かにこちらを見つめる柊羽の緩く弧を描く唇の形はそれだけで英知に確信を与える。きっと、柊羽は悪いことを企んでいる。
「…なに」
「英知は全てを捨てて、俺と2人でどこかに逃げたいか?」
 急な質問にどんな意図があるのか、そんなのは分からないけれど答えないと話は進まないのだろう。柊羽は意外と強情だ。それを何年かになる付き合いで嫌という程に分かっているだけに英知はこの歌をどう扱えばいいのか余計に分からなかった。柊羽と英知の関係をそのまま形にしたような歌だ。きっと、本当は歌ったらいけないもの。
「俺は、今も過去もみんなも捨ててまで柊羽と2人きりにはなりたくないよ。なれない。なったらきっと俺たちじゃなくなる」
「…だったら、この歌は俺と英知の歌じゃあない」
「どういうこと」
「真実に1つの嘘が混ざれば、それは真実にはならない。これはそういう歌だよ」
 ついと柊羽が指さした歌詞カードには確かに先程柊羽が問いかけた言葉が歌詞として存在していた。全てを捨てて逃げ出せたらいいのに。英知がこれまで一度も思ったことがないような言葉だ。
「…柊羽」
「なんだ」
 なんて無茶苦茶な理屈だ。屁理屈も良いところだ。そう言わないといけない筈なのに、英知には柊羽の言葉を真っ向から跳ね返すことが出来なかった。それは柊羽が悪戯っ子のような悪い顔で綺麗に笑っていたからなのかもしれないし、柊羽の独占欲だとか欲しがりな部分だとかそんなところが移ってしまったのかもしれないし、英知の中でそれならいいかとあっさり思ってしまったからかもしれない。嘘に見せかけた本当を歌う悪い大人に、2人で共犯者になろうとしているのに止められる人はたった今なくなってしまった。
「そういうの、屁理屈って言うんだよ」
「でも英知なら絆されてくれるだろう?」
「嫌な大人だ」
「乗っかった英知も、だな」

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