薄明

ごじょうさとる×ふしぐろめぐみ
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悪い夢

 黙っていれば作り物のようなこの人は、寝息すらぞっとするほど静かだ。遠くで虫が鳴く僅かな音しかないのに、五条の寝息はそれでも耳をすませないと聞こえない。天は二物を与えず、というが五条に足りないものなど殆どないようにすら思える。月明かりに照らされて頬に落ちる睫毛の影すら、計算され尽くしているように美しい。
 じっと耳をすませて、ちゃんと寝ているのを確認する。自分の瞬きの音すら邪魔になりそうな静寂の中で確認して、伏黒は指先を伸ばした。滑らかで、汚れなんか知らなさそうな頬は思っているより柔らかく、暖かい。白磁ではなかった。
「……なに、」
 微動だにしなかった五条の睫毛が震える。それから数度の瞬き。直ぐにしっかり開かれた瞳が伏黒を捉えて、ついでに不埒な手を掴んだ。皮膚と、その下にある肉と、さらにその奥にある骨の感触。
「なんかついてる?」
「いや、なにもない、です」
「じゃあ何?」
 布団の中で2人して丸くなって、こそこそと夜空から隠れるように眠る。悪いことをしているようで、五条を独り占めしているようで、息苦しいけれどこの寝方が嫌いではなかった。2人きりの時の五条は、伏黒が思っているよりずっとただの人間だ。こうやって起こされたらむっとするし、多分このままはぐらかせばじゃあいいやとさっさと寝てしまうだろう。
 ぱちぱちと、瞬きをして、目の奥が熱くなる。
「……安心、するなって」
 ほっとする。伏黒の手を掴む五条の手は、ちゃんと温かい。自分と変わらない。それにひどく安心するのだ。朝になったら少しだけ髭が伸びてきて五条の頬はちくちくするし、布団から出たくなくて駄々をこねる。コーヒーは砂糖を大量に入れたものが好みで、朝食は伏黒がいる時しか作らない。酒が飲めなくて、煙草も好きじゃない。眠っている時だけ作り物みたいで、目を覚ませばそうじゃない。
「はは、なにほんと。怖い夢でも見た?」
 瞼を伏せて笑った五条が伏黒の目元を雑に拭う。何を見たのかはさっぱり思い出せないが、本当に怖い夢を見たのならそれは五条が見たものと同じに違いなかった。

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