薄明
ごじょうさとる×ふしぐろめぐみ
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小さい頃、自分たち姉弟を見て五条が大きく手を振ってくるのが嫌だった。ただでさえ大きな体で大きく手を振って、ただでさえ目立つ人間が更に目立つ。でも姉は目印になってくれる五条に駆け寄るから一緒に行くしかなかった。中三の夏前には、そうして手を振って呼ばれるようなことはなくなったのだが。
けれどそんな五条が手を振っていた。どこだかよく分からない浅い川の真ん中に立つ伏黒に向かって、よく知った笑顔でもって手を振っていた。足首までしかない広い川の片側には五条が手を振って待っていて、もう片側には誰もいなかった。何故川にいるのかも、ここが何処なのかも分からなかったが立ち尽くしたままではいけないことだけは分かる。どちらかに行かねばならなかった。
小さい頃はこうして伏黒達を呼ぶのが嫌だった。津美紀がいない今、無視して反対側に行ってもよかったのだが、その時はなんとなく呼ばれるままに五条の方に行こうと思った。
水を跳ねさせながら進む川の向こうではまだ五条が伏黒を呼んでいた。
「おはよ」
「……はよ、ございます」
目を開けるとベッド脇に腰掛けた五条が見下ろしていた。視線を動かしながら今いる場所となぜ寝ているのかを思い出す。見慣れた医務室、薬品の匂い、痛む身体、目覚めるのを待っていた五条。
「呪いは、」
「祓っといたよ」
「…ありがとうございます」
任務で失敗したのだ。本来なら伏黒1人で足りる筈の任務。伝えられていた等級と現実は違った。それを言い訳の理由にしていいわけではないが、伏黒1人で足りる筈だった任務はそうではなかった。不甲斐ない、と思う。死にかけて結局五条に後始末をしてもらった。
そして、呼んでもらった。
「三途の川って本当にあるんですね」
痛む体はまだ動かせないけれど、視線だけで五条の手元を見る。この手が川の真ん中に立つ伏黒を呼んでいた。懐かしさすら感じるほどに。もしも伏黒があの五条を無視して反対側に渡っていたらこうして目覚めることはなかったのかもしれない。本当に五条が呼んでくれたのか、伏黒が生きたいと思ったから都合よく幻が現れたのか、真実は分からないけれど。
「へぇ、迷わず帰ってこれたんだ」
姉弟を呼ぶ時、まだ背丈もそれほどなかった自分たちの為に決まって五条は目印になるように大きく手を振っていた。津美紀、恵、と名前まで呼んで。いるだけで目立つのにさらに目立って本当は嫌だったのだけど。
「…あんたが、呼んでたから」
目隠しで見えないけれど、五条の目が柔く緩められた気がした。
「まだ恵と一緒にいたいって思ったからかな」
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2023.09.06 21:52:47
小説
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小さい頃、自分たち姉弟を見て五条が大きく手を振ってくるのが嫌だった。ただでさえ大きな体で大きく手を振って、ただでさえ目立つ人間が更に目立つ。でも姉は目印になってくれる五条に駆け寄るから一緒に行くしかなかった。中三の夏前には、そうして手を振って呼ばれるようなことはなくなったのだが。
けれどそんな五条が手を振っていた。どこだかよく分からない浅い川の真ん中に立つ伏黒に向かって、よく知った笑顔でもって手を振っていた。足首までしかない広い川の片側には五条が手を振って待っていて、もう片側には誰もいなかった。何故川にいるのかも、ここが何処なのかも分からなかったが立ち尽くしたままではいけないことだけは分かる。どちらかに行かねばならなかった。
小さい頃はこうして伏黒達を呼ぶのが嫌だった。津美紀がいない今、無視して反対側に行ってもよかったのだが、その時はなんとなく呼ばれるままに五条の方に行こうと思った。
水を跳ねさせながら進む川の向こうではまだ五条が伏黒を呼んでいた。
「おはよ」
「……はよ、ございます」
目を開けるとベッド脇に腰掛けた五条が見下ろしていた。視線を動かしながら今いる場所となぜ寝ているのかを思い出す。見慣れた医務室、薬品の匂い、痛む身体、目覚めるのを待っていた五条。
「呪いは、」
「祓っといたよ」
「…ありがとうございます」
任務で失敗したのだ。本来なら伏黒1人で足りる筈の任務。伝えられていた等級と現実は違った。それを言い訳の理由にしていいわけではないが、伏黒1人で足りる筈だった任務はそうではなかった。不甲斐ない、と思う。死にかけて結局五条に後始末をしてもらった。
そして、呼んでもらった。
「三途の川って本当にあるんですね」
痛む体はまだ動かせないけれど、視線だけで五条の手元を見る。この手が川の真ん中に立つ伏黒を呼んでいた。懐かしさすら感じるほどに。もしも伏黒があの五条を無視して反対側に渡っていたらこうして目覚めることはなかったのかもしれない。本当に五条が呼んでくれたのか、伏黒が生きたいと思ったから都合よく幻が現れたのか、真実は分からないけれど。
「へぇ、迷わず帰ってこれたんだ」
姉弟を呼ぶ時、まだ背丈もそれほどなかった自分たちの為に決まって五条は目印になるように大きく手を振っていた。津美紀、恵、と名前まで呼んで。いるだけで目立つのにさらに目立って本当は嫌だったのだけど。
「…あんたが、呼んでたから」
目隠しで見えないけれど、五条の目が柔く緩められた気がした。
「まだ恵と一緒にいたいって思ったからかな」
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