薄明

ごじょうさとる×ふしぐろめぐみ
 非公式二次創作ブログサイト

メイン

喧嘩

 喧嘩をした。喧嘩と呼ぶのもなんだか情けないくらい、くだらない喧嘩だ。こんなことでいらいらして怒って部屋を飛び出して、折角の休みなのに昼間から自分の部屋のベッドの上で寝転びぼんやりとしている。五条が休みを取れるなんて珍しいこと。更にその休みが伏黒と重なるなんてもっと珍しいこと。顔を合わせることは出来ても、ゆっくりした時間を過ごすことは存外難しい。そんな貴重な一日だった筈なのに。伏黒は窓から差し込む太陽の眩しさに目を閉じた。
 こんなことなら、たかが珈琲に入れる砂糖の数くらい好きにさせればよかった。毎回ばかみたいに入れるから角砂糖の減りが早いとか、健康に悪いとか、そんなのは所詮建前で本当はちょっとだけ嫉妬したのだ。伏黒が止めるのも無視して好きだからと手に取ってもらえて、伏黒だって本当に五条のことが好きだから想って言っているのに、それでも五条は角砂糖を取る。なんて小さい心なんだと呆れるが、けれど伏黒はあの角砂糖達が妬けるほど羨ましかったのだ。あの瞬間だけ、五条は伏黒よりたかが砂糖を大事にするのだから。だからちょっとだけ意地になってきつく言ってしまって、売り言葉に買い言葉。何となく今日はお互いそういうスイッチが入ってしまって、最終的には伏黒が五条の部屋を飛び出して1人で自室に戻ってきた。人の少ない廊下を足早に歩きながら頭は少しずつ冷静になって、部屋に着いた頃にはもうすっかり後悔だけが胸に残っていて。
 そして今更ごめんなさいと言って戻るにしてもタイミングも分からなくなり、今こうして貴重な休みの昼間にベッドの上でだらけている。暖かい日差しが差し込んで、外は眩しくて。なんだか虚しいな、と思いながら伏黒は1度欠伸を零した。


 ぱち、と目を覚ますと窓の外は暗くなっていた。気がついたら寝落ちていたようで、眩しかった日差しはとっくに隠れてしまっていた。もう今日も終わりが近い。結局五条と喧嘩みたいなことになって休みが終わってしまったことに、やっぱり伏黒は遅すぎる後悔をする。次なんてあるかも分からないのにこんなことで時間を浪費してしまうなんて。
「あ、起きた」
 霞む目を擦りながらベッドから身を起こすと聞き慣れた声がした。
 いつからいたのか、ベッド脇に腰掛けた五条がそこにいた。伏黒が身体を起こしたことで近付きよく見えた五条の顔はなんだか少しだけ疲れている。なんでいるんですか、とか勝手に入ってこないでください、とか言おうと思えばいくらでも出てくる筈の悪態はすっかり引っ込んでしまって、自然と零れたのは「ごめんなさい」だった。
 その言葉に目を伏せて五条が小さく笑う。
「…それはこっちの台詞だよ。なんかちょっと、ムキになっちゃった。…たかが砂糖なのにね」
 五条の腕が伸びてきて、少しの躊躇いを乗せながら伏黒を抱きしめる。本当にいつからいたのだろう。五条の身体は少しだけ冷えていた。
「ごめんね恵。折角の休みなのに台無しなことした」
 ごめんね、その言葉に気分が少しだけ上向いて軽くなる。
「ねぇ、次からはもう砂糖は3個にする。だから仲直りして」
 たかが珈琲に入れる砂糖の数程度で2人して神妙な顔をしてごめんなさいなんて言って。馬鹿みたいだ。馬鹿みたいで笑えてしまう。ああ、本当に今日は勿体ない時間の使い方をした。真面目な顔をして砂糖の数で仲直りの打診をする姿なんて、きっと他人が見たらあまりのくだらなさに指を指すだろう。でも、そのくだらなさで虚しかった今日が有意義になる。
「…なんですか、3個って」
 笑えば、五条はだってもうこんな喧嘩したくないからと言った。

畳む

小説 編集

Powered by てがろぐ Ver 4.2.0.