薄明

ごじょうさとる×ふしぐろめぐみ
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そのくらいの我儘、
2020か21くらいのおめぐ誕

 昔から欲しいものを聞いても特にないと答える子だった。それでも何かないかと無理矢理聞き出して、やっと強請るものといえば食事に行きたいだのなんだのと形に残らない一度限りのものばかりであった。それは姉の津美紀に聞いても同じ答えで、失くなることをよく知っている子供たちらしいといえばらしかった。こんな仕事をしているからこそ形に残る物の虚しさも切なさも五条はよく知ってはいるが、それにしても随分と欲のない子達だと思ったものだった。
 何年経ってもそれは変わらず、今年の誕生日も伏黒の答えは1つの迷いもなく「特にありません」だった。そう返されるのは分かってはいたのだけど、しかし何度同じやり取りをしても分かったとは返せないのも例年通り。じゃあ今日が終わるまでに何か考えといてよ、と運良く今日1日任務がなく座学のみの伏黒に告げたのは今朝のことであった。
「ねぇ、決まった?」
 五条の言葉に伏黒は少しだけ口を尖らせた。
 一日の授業が終わったあとも伏黒の後ろをついて回って部屋にまで上がり込んだ五条に、伏黒は何も言わなかった。何も言われないのをいい事にずっと横に張り付いていたのだけれど、なんとなしにそのままお互い夕食を摂って風呂に入ってソファでだらけ始めても伏黒は欲しいものだけは言わなかった。伏黒が自身の分と合わせて用意してくれた砂糖多めの珈琲を啜りながらあと数時間となってしまった時計の文字盤を見る。夕食も摂ってしまったし今更どこかに食べに行くでもあるまい。決まりきらなくて後日になっても五条としては一向に構わないけれど。
「ねぇ、」
 つんと口を尖らせたままの伏黒にもう一度声をかければ、やっとこちらを向いた伏黒と目が合う。開いた口を閉じて伏黒の次の動きを待っていれば、静かに手が伸びてくる。じっと伏黒の瞳を見つめたまま伏黒のすることを見守っていればかけていたサングラスをするりと外された。途端に明るくなる視界。次に何があるのか、分からないほど初心でもないし、浅い付き合いでもない。珍しいな、と思いながらそのまま寄せられた伏黒の唇を受けとめる。慣れないことへの緊張か、やけに熱くてかさついた唇だった。
「……めずらし」
「…プレゼント、」
 目じりと耳を赤くした伏黒が言う。
「これだけで、いいです」
 手に持ったままのサングラスのテンプルを掴む手には離したくないとでも言うように少し力が込められていて、でも目線はもう五条から逸らされていた。赤い耳が、よく見える。
「キスだけ?しかも1回?」
 五条の言葉に頷く伏黒は、やはりまだ手を離さない。五条からしたら小さい手に、自分の手を重ねる。指先は少しだけ冷たかった。
 キスなんて誕生日じゃなくても、何も無い日でもあげてるのに、とは言えなかった。
「まだ時間あるよ。他には?」
 昔から欲のない子だった。それはただ欲しい物が、求めていることがないのではない。失うことを知っているからこそ、だからこそ求めることをやめたが故の無欲であった。大事なものといつまでも一緒にいられないことを、よく知っているが故の無欲だ。それは諦めとよく似ている。
「……じゃあ、」
 伏せられた伏黒の睫毛が震えた。我儘も欲の一つ、伏黒が苦手なもの。一緒にいて、くらい言ってくれてもいいのに人はいなくなることをよく知っている伏黒は言わない。言えたとしても小指の先くらいの願いしか言えないのだ。
「日付変わるまで、一緒にいてくれたら…」
 日付が変わるまであと数時間。いつまで経ってもこの子は無欲な子であった。
 そんなのいつだって言っていいのに、とは五条もよく知っているから言えなかった。けれど口に出すことは悪いことではないよ、そう言ってやればこの子はどんな顔をするのだろう。

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