薄明

ごじょうさとる×ふしぐろめぐみ
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香水


「風呂、入ってきてください」
 む、と眉間に皺を寄せた伏黒が人の顔を見るなりそう告げた。なんなら玄関に立ち尽くす五条から少し距離まで取られ、思わず自分のシャツの襟元を嗅ぐ。任務やら何やらを終えて帰宅したばかりとはいえ別に汗臭くはない、はず。呪霊の変な体液を浴びたでもないし、呪詛師の返り血を浴びたでもない。
 しかし強いて何か匂うとするなら、香水くらいか。今日は任務の後に御三家のお堅い集まりがあったのだ。乗り気じゃない集まりだったが、一応当主としての最低限の身嗜みとして、軽くワンプッシュ。
「臭い?」
「臭いっていうか…俺、その匂い嫌いです」
「その匂い?」
「五条さんが家の集まりとかでたまにする香水」
 少し口を尖らせた伏黒が、ふいと顔を逸らした。少し拗ねたような顔。
 今までにもこの香水を使ったことは何度もある。任務以外にも何かと呼ばれることは多く、場によっては使うことがあった。伏黒だって今日初めて嗅いだものではない筈なのに、どうして今になって。今までと今日、何が違うか玄関で靴も脱がずに考える。
 最後に使ったのはいつか。伏黒の前でこの香りを纏ったのはいつか。記憶を辿って、少しの間。伏黒が痺れを切らしたところで「あ、」と答えに気付く。
「いいから早く風呂に、」
「僕の匂いしなくて嫌なんだ!?」
 ぴたりと伏黒の動きが止まる。それからじわじわと頬に色が乗る。
 つい最近までもこれを使うことは何度もあったが、この香りを残したままで伏黒と顔を合わせたのは随分と前のことだった。伏黒が中学に上がったばかりの付き合う前。あの時は新年の集まりが終わるなりその足でアパートに遊びに行ったのだったか。その時と変わったことといえば伏黒との関係。付き合うようになって、当然触れ合いもずっと近くなった。セックスの時、伏黒は自分の首元に顔を埋めて深く息を吸うのが好きなのも、今は知っている。
 伏黒は、五条の匂いが好きなのだ。
「今までこれ付けてる時は会わなかったり、会う前にシャワー浴びてたりしたから全然意識してなかった。そっか、これしてたら邪魔だよね」
 靴を脱いで玄関から一歩踏み出す。言い当てられて伏黒は首まで真っ赤だ。眉間の皺はそのままに、けれどなんて答えればいいのか分からないというようにはくはくと口を開け閉めしている。
「ダッシュでシャワー浴びてくる!ちょっと待っててね。あと香水は捨てる!」
「っべ、別に、捨てなくて、いい……俺の前で、しないでくれたら…」
 伏黒の手を引いてリビングに放り込んで、自分はどたばたとバスルームに駆け込みながら言えば、もごもごといじらしいことを言う。
 そういえば香水はどうやって捨てればいいんだろうか。この間買い直したばかりで中身の残ったそれを思い浮かべながら、五条はバスルームの扉を勢いよく閉めた。

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