薄明
ごじょうさとる×ふしぐろめぐみ
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まんまる虫
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「めずらし」
『……寝れなくて』
恥ずかしさを乗せた声がスマートフォンの向こうから響いた。深夜3時半、任務でもなければとっくに伏黒は寝ている時間。こうして真夜中に電話をかけてくるのは余程のことだ。眠りも浅くて時間もそんなに必要としない自分としては、いつ電話で起こしてくれても構わないのだが伏黒はそれをしない。
『すいません、こんな夜中に』
「どうせ起きてたしいいよ。子守唄でも歌ってあげようか」
『…話が、聞きたいです』
五条の提案を無視して、伏黒が小さくこぼす。どこか元気のないその声には覚えがあった。小学六年生になって背伸びをしたがった津美紀が、友達の家に泊まると言って不在だった日の夜だ。今日みたいに真夜中、当時渡していた子供用の携帯電話を使って伏黒が五条にかけてきたのだ。
「いいよ。つっても仕事ばっかでそんな面白い話ないけど」
『それでもいいです』
スマホの向こうから衣擦れの音が聞こえる。布団の中で丸くなっているのかもしれない。眠れない時、伏黒は布団の中で小さく丸くなるのだ。
今日を振り返りながらぽつぽつと伏黒に語りかける。宿の朝食が伏黒好みの味付けだったとか、現場の周辺を見回っていたら野良猫が井戸端会議をしていただとか、祓除帰りに落ち着いた佇まいの喫茶店を見かけただとか、大きな盛り上がりも驚くようなオチもない話。
五条の話に小さな相槌だけを返していく伏黒はきっとまだ布団の中でまんまるだ。小さく小さく身体を畳んで、布団の真ん中で息を潜めるようにして五条の声を子守唄に眠気がやってくるのを待つ。いつやってくるのかは残念ながら五条にも分からない。
「歯がゆいってこういうことを言うんだよね」
『…何が?』
「もっと近場で任務だったらさ、ダッシュで帰って恵のこと寝かし付けられたのに」
『寝かし付けるって、子供じゃあるまいし』
「子供だよ。まだまだでっかい子供。」
スマホの向こうで吐息の漏れる音。小さく笑った伏黒が「じゃあ子供の特権ですね」と言う。
『忙しい五条先生の時間をこんなことに使わせてるんですから』
「子供の特権じゃなくて、恵の特権。言っとくけど恵がいい歳したオッサンになっても僕の寝かし付けサービスあるからね」
『贅沢すぎる』
くすくすと笑った伏黒が小さく欠伸をこぼす。どうやら伏黒の笑い声につられてやっと睡魔がやってきたらしい。衣擦れの音。しばらくもぞもぞと音が続いたから、もしかしたら布団の中から頭を出したのかもしれない。まんまるになるのをやめて寝る体勢に入ったらしい。
「もう寝れそ?」
『…ん』
津美紀が泊まりでいなかった夜と今夜の伏黒は一緒だ。急に訪れたどうしようもなく寂しい夜が、伏黒のことを布団の中のまんまる虫にしてしまったのだ。本当は沈んだ声で寝れないなんて電話を寄越すほど溜め込まず、こまめに五条に寂しさを吐き出してくれればいいのだが、それが出来るようになるのはまだ先の話だろう。わがままのやり方も甘え方もまだまだ勉強中だ。
「おやすみ」
『おやすみなさい』
その声は最初に掛けてきたのとは違って、もうふにゃふにゃだった。
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2025.03.20 01:56:13
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「めずらし」
『……寝れなくて』
恥ずかしさを乗せた声がスマートフォンの向こうから響いた。深夜3時半、任務でもなければとっくに伏黒は寝ている時間。こうして真夜中に電話をかけてくるのは余程のことだ。眠りも浅くて時間もそんなに必要としない自分としては、いつ電話で起こしてくれても構わないのだが伏黒はそれをしない。
『すいません、こんな夜中に』
「どうせ起きてたしいいよ。子守唄でも歌ってあげようか」
『…話が、聞きたいです』
五条の提案を無視して、伏黒が小さくこぼす。どこか元気のないその声には覚えがあった。小学六年生になって背伸びをしたがった津美紀が、友達の家に泊まると言って不在だった日の夜だ。今日みたいに真夜中、当時渡していた子供用の携帯電話を使って伏黒が五条にかけてきたのだ。
「いいよ。つっても仕事ばっかでそんな面白い話ないけど」
『それでもいいです』
スマホの向こうから衣擦れの音が聞こえる。布団の中で丸くなっているのかもしれない。眠れない時、伏黒は布団の中で小さく丸くなるのだ。
今日を振り返りながらぽつぽつと伏黒に語りかける。宿の朝食が伏黒好みの味付けだったとか、現場の周辺を見回っていたら野良猫が井戸端会議をしていただとか、祓除帰りに落ち着いた佇まいの喫茶店を見かけただとか、大きな盛り上がりも驚くようなオチもない話。
五条の話に小さな相槌だけを返していく伏黒はきっとまだ布団の中でまんまるだ。小さく小さく身体を畳んで、布団の真ん中で息を潜めるようにして五条の声を子守唄に眠気がやってくるのを待つ。いつやってくるのかは残念ながら五条にも分からない。
「歯がゆいってこういうことを言うんだよね」
『…何が?』
「もっと近場で任務だったらさ、ダッシュで帰って恵のこと寝かし付けられたのに」
『寝かし付けるって、子供じゃあるまいし』
「子供だよ。まだまだでっかい子供。」
スマホの向こうで吐息の漏れる音。小さく笑った伏黒が「じゃあ子供の特権ですね」と言う。
『忙しい五条先生の時間をこんなことに使わせてるんですから』
「子供の特権じゃなくて、恵の特権。言っとくけど恵がいい歳したオッサンになっても僕の寝かし付けサービスあるからね」
『贅沢すぎる』
くすくすと笑った伏黒が小さく欠伸をこぼす。どうやら伏黒の笑い声につられてやっと睡魔がやってきたらしい。衣擦れの音。しばらくもぞもぞと音が続いたから、もしかしたら布団の中から頭を出したのかもしれない。まんまるになるのをやめて寝る体勢に入ったらしい。
「もう寝れそ?」
『…ん』
津美紀が泊まりでいなかった夜と今夜の伏黒は一緒だ。急に訪れたどうしようもなく寂しい夜が、伏黒のことを布団の中のまんまる虫にしてしまったのだ。本当は沈んだ声で寝れないなんて電話を寄越すほど溜め込まず、こまめに五条に寂しさを吐き出してくれればいいのだが、それが出来るようになるのはまだ先の話だろう。わがままのやり方も甘え方もまだまだ勉強中だ。
「おやすみ」
『おやすみなさい』
その声は最初に掛けてきたのとは違って、もうふにゃふにゃだった。
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