薄明

ごじょうさとる×ふしぐろめぐみ
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リッチな特別コーヒー


 有識者曰く、ドリップコーヒー・インスタントコーヒー・缶コーヒー、これらは全てコーヒーと名が付くが別物だという。
 とくに味に拘りは無いが、コーヒーを飲む方である伏黒には一応言わんとすることは分かる。だが基本的に飲みたい時にすぐ飲めればいいので、家で飲む時はスーパーで買ってきた手頃なインスタントコーヒーをマグカップに適当に入れて、適当に沸かした湯でもって適当に飲む。たまにカフェで飲むコーヒーは確かに美味いが、わざわざ家で再現してまで飲みたいほどの拘りはなかった。
 けれど伏黒と五条が暮らすこの家にはコーヒーミルとドリッパーが置いてある。通販で買ったちょっと高い良いやつ。買ったのは勿論、五条だ。
 裸足をぺたぺたと鳴らしてキッチンに立つ五条の元へと向かう。下着1枚の五条は背中に昨夜の名残を乗せながらケトルでお湯を沸かしていた。お湯が用意されるまでの間にマグカップをふたつ手に取り、特売だったからとスーパーで伏黒が買ってきたインスタントコーヒーに手を伸ばすのを見て声をかけた。
「おれ、今日はあれがいいです」
 ぴたりと五条の手が止まって、ゆっくりと背後の伏黒を振り返る。ちょっと下唇を尖らせているのは面倒くさいの顔だ。
「めんどいんだけど」
 やっぱり。
「でもあれがいいです。リッチなコーヒー」
「ん〜…」
 渋々、と言った様子で五条の手が方向を変えてキッチンの隅っこに置かれているコーヒーミルと豆に向かう。
 埃を被りかけているコーヒーミル達は五条が以前買ってきたものだ。ネットかテレビか、何かに触発された五条がこの一式を揃えたのだ。どれも決して安くはないものを買い、やっぱコーヒーと言ったらこれでしょ!なんて言って形から入った。しかし形からとはいえ丁寧に作られたコーヒーは実際美味しかったし、五条も目を輝かせていた(砂糖を山ほど入れたそれは、果たしてここまで丁寧に挽いたところで味が分かるのか、と疑問に思ったが胸にしまった)。けれどその感動も最初の数回だけで、豆を挽き、ドリッパーをセットし、ゆっくりを湯を注ぐ諸々という一連の手間の前では呆気なく霞んでしまったのだった。
 それから使われることはすっかり減ったが、埃が積もりそうになると伏黒が声をかけるのだ。五条が丁寧にいれてくれたコーヒーが飲みたいと。それはなんて事ない朝だったり、事務仕事をやらないといけない昼時だったり、夕食後の緩やかな時間だったり、今みたいに昨夜は随分と遅く(どちらかと言えば朝に近い)までベッドの上で過ごした後の昼に近い朝だったり。
「飲みたいんなら自分でやんなよ」
「やり方知らないんで」
「嘘つけ。てかスマホで調べられるでしょ」
 五条の横に立って顔を覗くと、相変わらず下唇はつんと尖っていて言葉も余すことなく「面倒くさい」と訴えている。それでも手は止まることなく伏黒の為に動いているのだから、ついつい甘えてしまうというもの。
「誰がこんな我儘で甘えたに育てたかな〜」
 そうぼやいた五条の背中の傷跡をちょん、と指先でつついた。

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