薄明
ごじょうさとる×ふしぐろめぐみ
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今日の罪は海が食べてくれるよ。
柊英です
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たまたま見付けた古びたこの喫茶店は沢山の苺が乗ったタルトが看板メニューらしい。らしい、というのはネットで調べたのでもなく人に聞いたのでもなく、店先に置かれた小さな黒板にそう書かれていたからだ。何色かのチョークで可愛らしく苺のタルトが描かれて、是非食べてください、と。
「わ、本当に沢山のってる」
「壱星と壱流にも見せてやりたいな」
「ね。でもお忍びだから」
「秘密だな」
その看板に誘われるままに店内に入れば柊羽と英知以外に客はおらず、店主もちらりと2人の顔を見ただけで何も言わなかった。本当に気付いていないのか、それとも何かを察して黙ってくれたのか、それは分からないけれど。窓から少し離れた2人席に腰掛けて苺のタルトとコーヒーを頼めばそう時間も掛からずにテーブルへと運ばれ、先程の会話に繋がる。
窓の外はどんよりと曇っていて、空は灰色に染まり空気もどこか重さを増しているような気すらする。あいにく英知達の座った席からは見えないけれど、きっと空のすぐ下にある海も同じように彩度を落として重苦しく波打っているのだろう。今日は雨は降らないと朝の予報で言っていたけれど、果たしてどうだろうか。
「…悪いこと、しちゃったかな」
「2人で出掛けたことか?」
目の前に置かれた1ピースのタルトにフォークを差し込む。艶やかな苺が店内の間接照明に照らされた。
「うん。バレたら2人にも怒られるし、たぶん社長とか偉い人にも怒られちゃうなって」
「バレなければ、それは罪じゃないさ」
柊羽の言葉に肩を揺らして笑う。確かにその通りでは、あるのだけど。柊羽はいつだって大胆だ。
「悪い大人だ」
「それは英知もだろう」
甘酸っぱい苺はどこか非現実的な薄暗い今日の中で少しだけ現実味を持っていた。
どうして仕事の振りをして2人で海に来たのか。どうしてそうしようと思ったのか。それは今朝の出来事の筈なのに車を走らせる中で何処かに置いてきてしまったように思い出せなかった。壱星と壱流が2人揃って泊まり仕事で今日の夜まで帰ってこなくて、偶然英知と柊羽の休みが重なって、テレビから流れるお天気キャスターが本日は一日曇り空でしょうと言っていて、どちらからともなく出掛けようと言い出して。まるで何かに駆られたように記憶ははっきりしない。
コーヒーを一口飲んだ柊羽がじっと窓の外を見詰めて、それから口を開いた。
「英知は、」
「ん?」
「行かないでくれ」
「…何処に?」
また口を閉ざした柊羽は窓から視線を外し、英知に倣うようにタルトへとフォークを伸ばした。真っ赤な苺を飲み込んで、美味しいと零す。少しの間。
「…海、とか?」
「なんで疑問形なのさ」
「はは、どうしてだろうな…ただ、今日の海は1人が似合いそうだから、不安になったのかもしれない」
小さく笑った柊羽がどこか力なく次のひと口をフォークに乗せた。鮮やかなタルトは色彩がはっきりしない今日の中でいやに眩しい。
「行かないよ。1人がお似合いでも、だからって俺1人でどっか行ったりするもんか」
そうか、と呟いて柊羽はまたタルトを頬張った。窓の外ではどんよりとした雲が悪い大人の英知達を見つめ返していた。
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2026.01.09 22:15:06
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柊英です
たまたま見付けた古びたこの喫茶店は沢山の苺が乗ったタルトが看板メニューらしい。らしい、というのはネットで調べたのでもなく人に聞いたのでもなく、店先に置かれた小さな黒板にそう書かれていたからだ。何色かのチョークで可愛らしく苺のタルトが描かれて、是非食べてください、と。
「わ、本当に沢山のってる」
「壱星と壱流にも見せてやりたいな」
「ね。でもお忍びだから」
「秘密だな」
その看板に誘われるままに店内に入れば柊羽と英知以外に客はおらず、店主もちらりと2人の顔を見ただけで何も言わなかった。本当に気付いていないのか、それとも何かを察して黙ってくれたのか、それは分からないけれど。窓から少し離れた2人席に腰掛けて苺のタルトとコーヒーを頼めばそう時間も掛からずにテーブルへと運ばれ、先程の会話に繋がる。
窓の外はどんよりと曇っていて、空は灰色に染まり空気もどこか重さを増しているような気すらする。あいにく英知達の座った席からは見えないけれど、きっと空のすぐ下にある海も同じように彩度を落として重苦しく波打っているのだろう。今日は雨は降らないと朝の予報で言っていたけれど、果たしてどうだろうか。
「…悪いこと、しちゃったかな」
「2人で出掛けたことか?」
目の前に置かれた1ピースのタルトにフォークを差し込む。艶やかな苺が店内の間接照明に照らされた。
「うん。バレたら2人にも怒られるし、たぶん社長とか偉い人にも怒られちゃうなって」
「バレなければ、それは罪じゃないさ」
柊羽の言葉に肩を揺らして笑う。確かにその通りでは、あるのだけど。柊羽はいつだって大胆だ。
「悪い大人だ」
「それは英知もだろう」
甘酸っぱい苺はどこか非現実的な薄暗い今日の中で少しだけ現実味を持っていた。
どうして仕事の振りをして2人で海に来たのか。どうしてそうしようと思ったのか。それは今朝の出来事の筈なのに車を走らせる中で何処かに置いてきてしまったように思い出せなかった。壱星と壱流が2人揃って泊まり仕事で今日の夜まで帰ってこなくて、偶然英知と柊羽の休みが重なって、テレビから流れるお天気キャスターが本日は一日曇り空でしょうと言っていて、どちらからともなく出掛けようと言い出して。まるで何かに駆られたように記憶ははっきりしない。
コーヒーを一口飲んだ柊羽がじっと窓の外を見詰めて、それから口を開いた。
「英知は、」
「ん?」
「行かないでくれ」
「…何処に?」
また口を閉ざした柊羽は窓から視線を外し、英知に倣うようにタルトへとフォークを伸ばした。真っ赤な苺を飲み込んで、美味しいと零す。少しの間。
「…海、とか?」
「なんで疑問形なのさ」
「はは、どうしてだろうな…ただ、今日の海は1人が似合いそうだから、不安になったのかもしれない」
小さく笑った柊羽がどこか力なく次のひと口をフォークに乗せた。鮮やかなタルトは色彩がはっきりしない今日の中でいやに眩しい。
「行かないよ。1人がお似合いでも、だからって俺1人でどっか行ったりするもんか」
そうか、と呟いて柊羽はまたタルトを頬張った。窓の外ではどんよりとした雲が悪い大人の英知達を見つめ返していた。
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