薄明

ごじょうさとる×ふしぐろめぐみ
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飲み込みきれない罪はシーツへ。
柊英です


 使い古されたどころか、きっと壱星も壱流も知らないだろうベッドへの誘い文句を口にした英知は酷く気恥しそうだった。ご飯にする?お風呂にする?それとも、なんてあまりにもベタでともすれば冗談にとれてしまうそれだが英知の目を見ればそれが柊羽に向けての冗談ではないことは直ぐに分かった。ドラマや映画の中で幾度もベッドへの誘いの言葉を口にしてきたが、本命に言うのは柊羽にだって気恥しい。英知も同じなのだ。
 けれどその誘いに乗らない訳もなく、そして誘われてしまえば舞い上がって盛り上がってしまうのも事実。英知に誘われるまま彼の部屋へと上がり込み、時計の針が日付が変わったことを知らせてから2時間程経った時には柊羽も英知も久々の行為で乱れた呼吸を整えるように並んでシーツにくるまっていた。
「…今日は随分と積極的だったな」
 隣で仰向けに寝転がり天井を見つめていた英知にそう声をかければ「俺だって男ですし?」と返される。乱れ、汗で額に張り付いたひと房の髪が少し前のことを思い起こさせる。柊羽だって男だ。どうしようもなく欲深くなる日もある。だからそうかとだけ返して深く追求もせずに英知の髪を払おうとした時だった。
「…ていうのは建前で」
 柊羽の指先が触れる前に、首だけを動かして英知が真っ直ぐに柊羽を見る。宙に浮いたままの指先が僅かに揺れた。
「なんだか柊羽を繋ぎ止めておきたくなっちゃって」
 その言葉の意味をはかりかねるように柊羽が行き場のなくなった指先を自分の元へと戻せば、英知が眉を下げて笑った。どことなく寂しそうで、けれどどこか呆れも含ませて。それは英知自身に対してなのか、それとも柊羽に向かってなのか。それすらも読めやしない。
「…俺は、英知から離れたりなんてしないさ」
「知ってる。…知ってるけど、なんか柊羽が海に攫われちゃいそうな気がして」
 それは嫌だから慣れないことをしちゃった。そこまで言って英知は熱くなったのか頬を冷ますように手で自身を扇いだ。
 つい数日前、誰にも内緒で2人で海へと出かけた。真冬の海はどこか重苦しく波を立て、恵まれなかった天気の中ではより一層その質量を増しているようだった。あの時見かけたカフェで食べた苺のタルト、窓から覗く鈍い暗い色をした雲、その雲の下にある寂しそうな海。それらが一息に思い出されて、ようやっと柊羽は英知の行動に言葉に納得がいく。
 英知も、1人が似合うあの海に柊羽が行ってしまうんじゃあないか。そんな子供のような不安に駆られたのだ。
「どこにも行かないさ。どんなにあの海に呼ばれたって、こんなに幸せな場所から離れられるわけがない」
 今度こそ英知に向かって手を伸ばし、張り付いた髪を横に払ってやる。
「俺1人でどこかに行ったりなんてしないよ、英知」
 深夜のベッドに広げられたシーツはあの日の海のような波を作り上げていて、その中で英知はそっかと呟いた。きっともう二度と行くことはないだろうあの日の海が、結局誰も誘えずに寂しそうに遠くで波打っている。


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