薄明
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君が零した星を1つ
柊英です
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愛が重い人よりは、愛が深い人になりたい。そう思っていても愛の形を自分の思い描いた形にするのは難しい。店先で見かけてふと手に取ってしまった時、自分の頭には英知の顔しか浮かばなかった。それがいい例だ。きっと英知は驚いた顔をするだろうし、困ったような顔もするだろう。それでも最終的には分かったと頷いてくれるのも分かるから、つくづく自分は英知の優しさに甘えているのだと思い知る。きっと重たいなんて思われてしまうのだろうけれど、形に残るものがあるとどうしたって安心するのだ。
「おかえり、柊羽。今日って夜までじゃなかった?」
「かなり早く終わったんだ。壱星と壱流は?」
「まだ撮影。柊羽とは反対で撮影が押してて帰りが遅くなるって」
共有ルームの窓から見える空は夕暮れ時のオレンジと夜の紺が混ざり合っていた。夏がすぎて随分と日は短くなり、あと1時間もすれば空は夜闇の紺色で染まってしまうだろう。壱星と壱流が帰ってくる頃にはきっと夕暮れなんて欠片も残っていないに違いない。けれどそれならば好都合とキッチンで飲み物の準備をしてくれている英知を手招く。丁度用意が出来たのだろう英知の手には2つのグラスがあった。
「英知、少しお願いがあるんだ」
「珍しいね。なになに、俺に出来ることなら何でも言って」
柊羽の向かいに座りながら手にしていたグラスを1つくれる。中には麦茶が入っていた。ここ暫く夏の名残が消えないまま今でも英知が冷蔵庫に作りおいていた麦茶は、1口含めば何となく夏の気配を感じさせる。けれど最近はやっと涼しい日が増えてきたから、今冷蔵庫に入っている分がなくなったら今年の麦茶は終わりだろう。そう思うとただの麦茶なのに少しだけ勿体ない気すらする。そんなことを考えながら帰りがけに買ってきた小さな紙袋をテーブルに出す。
「これを、お願いしたいんだ」
開けていいかと聞く英知に勿論と返せば、紙袋の大きさに合わせるように少しだけ肩を縮こまらせて封を開けていく。無意識なのだろうけれど、小さな物を扱う時に自分も小さくなる姿が可愛いと思う。
「ピアッサー…?」
「ああ。これで英知に」
そこで英知が手にしているピアッサーをついと指差す。柊羽の指の先を追うように視線が手元へと落とされる。その視線をさらに誘導するように今度は柊羽自身の、右耳へと向ける。
「ピアスを開けてほしい」
大きい瞳がまあるく開かれて、瞬きをしながら柊羽の言葉を咀嚼していく。想像していた通り、驚いた顔をしている。グラスの中の麦茶は柊羽の分だけその量を減らして、英知の分は殆ど減らずに残されていた。
「…俺が、柊羽に?」
「そうだ。英知に、開けてほしい」
「えっ、いやいや、そんな急に言われても、えっ、てか、事務所に許可は」
焦ったように口を動かし出した英知の姿に笑いながら、仕事から戻る移動車の中で全部済ませたと言えば英知はそっと口を閉ざして手の中のピアッサーを握りしめた。ドラマの仕事だけでなく、柊羽が抱えている仕事自体がある程度片付いて時間に余裕がある。その今だからこそ出来ることなのだ。少しだけ、英知の眉間に皺が寄って、どうして急になんて顔をする。意図が読めないと柊羽の言葉を待つ英知の、ピアッサーを握り締めた手にそっと自分の手を重ねる。これはそんなに怖いものじゃあない。開けたことが無い人から見たらそれはちょっと怖いものかもしれないけれど、そんな怖くはないのだ。ほんの一瞬の痛みなんて、怖くない。
「何か、形に残るものが欲しいんだ」
「残るもの、」
「消えなくて、ずっと残るもの。見る度に思い出せるもの。…なんて、流石に重たいな」
目に見えない繋がりは尊く美しいものだ。それは痛いほどに分かっている。いつだって誰かに助けられて、愛されて、守られて柊羽は今ここにいて、それらはどれも目に映らない。そこに見える形を求めてしまえば途端にその尊いものはその輝きを変えて重さを増してしまう。それが分かっているけれど、それでも柊羽は英知から無くならないものが欲しいのだ。永遠なんて、この世にはないのだから。
「重たいとかは思ってない、ていうかそれはいいんだ。ただ、柊羽を傷付けるようなことだから、ちょっと、びびってる」
柊羽に求められるのは嬉しいんだよ、そう言った英知はそれでもまだ握り締めた手を緩めなかった。
「ピアスなんてみんなやってるし、別に大怪我するようなのじゃないのは分かるんだけど、傷を付けるのって、怖い」
「優しいな」
「優しくなんて」
「優しいさ。自分が痛いわけでもないのに、そんな顔をしてるんだからな」
嫌なら嫌と言えばいいのに、そう言わないのだって英知の優しさだ。こんなお願い聞けないと言えば柊羽は簡単に引き下がるのを知っている筈なのに。永遠なんて存在しないからこそ、永遠に残るものが欲しい。ふとした瞬間に感じられる確かな形が欲しい。あんまりにも重たくて、ともすれば相手を押し潰してしまうかもしれない。それが今なのか明日なのかそれともずっと先なのかは分からないのだけど。愛が重い人よりは深い人がいい。そうは思っていたってなかなかどうして、上手くはいかない。
じっと黙り込んでいた英知が大きく息を吐き出した。ピアッサーを握る手を緩めて、空いた手を柊羽の手に重ねる。持ち上げられた英知の目が真っ直ぐに柊羽を射抜いた。
「分かった。開ける」
「ありがとう」
「でも」
先程までの迷いなんてどこかに追いやってしまった英知の言葉は何かを決意したように凛と響いた。
「明日まで待って。そんなこと言われたら、俺だって柊羽と一緒だよ」
言葉の意味を考える前に玄関が開く音がした。その音が終わりの合図と言わんばかりに柊羽から手を離すと、英知はピアッサーを素早く紙袋に戻してしまった。これは明日まで俺が預かるから。その言葉に頷くことしか出来ない。それから直ぐに聞こえた足音に英知の目が和らいで、先程の柊羽を射抜いた視線はどこかへ行ってしまった。
「ただいま」
「ただいま!」
「おかえり、イッセー、イッチー!」
気がつけば窓の外は真っ暗で、夕暮れの名残はなかった。
____
「柊羽、今夜少しだけいい?」
「勿論」
壱星と壱流が眠った後、柊羽の元へとやってきた英知の手には昨日の紙袋の他にもう1つ別の紙袋があった。中身の見えないそれに何が入っているのか、それを聞く前に英知の手が柊羽の手を取る。掌を上にするようにして持ち上げられたそこに、柊羽の知らない紙袋が置かれる。
「本当は夜じゃなくて昼間に出来たら良かったんだけど、仕事があって。ごめん」
「それは仕方ないことだし、そもそも俺の我儘だから気にしなくていい。…これは?」
「開けてみて」
柊羽から目線を逸らした英知には触れずに、渡された紙袋の封を開ける。その間に英知がぽつりぽつりと、まるで言い訳をするかのように言葉を重ねていく。それを聞きながらじわじわと自身の頬に熱が集まって、同時にむず痒いような喜びが湧いてくる。ああ、昨日英知が言っていたことの意味はそういうことだったのか、と。
「色物はあんまり好きじゃないんだろうなとは思ってるけど、それでも渡したくて、…一応これでも店先ですっごい悩んで!悩んで、やっと見つけたやつなんだ。なるべくシンプルに、でも、俺のことを忘れられない、色」
柊羽の掌の中、当たる光の角度によって様々な色へと変わる小さなそれは、時折淡く透き通ったイエローグリーンを覗かせた。シンプルに石だけの飾り気のないそれは、けれど様々に色を変えていく。まるで英知のようにころころと表情を変えていく。
口元がだんだん緩んでいくのが分かる。英知が小さくそんなに笑わないでよと呟いた。
「とても綺麗な色だな」
「ルミナスグリーンって言うらしいよ。見かねた店員さんが教えてくれた」
「よっぽど仲良くなったんだな」
「だってすっごい悩んだんだよ!…本当は、ちゃんとした宝石とか使った、もっといいやつが良かったんだろうけど、俺にはそれが一番だと思ったんだ」
天然ではなく人工的に作られた小さな石の価値も値段も知らないけれど、英知が店先の店員と親しくなるほどあれこれと時間を掛けて選んでくれたひとつのピアスはそれだけで金には替えられない価値がある。いくら積まれたって人に渡せやしないし、いくら払ったって柊羽の手の中に収まるこれと同じものは存在しない。朝起きて、ベッドサイドのテーブルに置かれたこれが美しくイエローグリーンに瞬く、それを手に取って英知が示してくれたそこに宛てがう。想像するだけで胸が満たされるようだった。
「まるでプロポーズだな」
「お返しだからね」
英知は徐に柊羽の右耳へと手を伸ばした。いやに熱い手が柊羽の薄い耳たぶに触れる。本当はどんなに小さいものでも誰かに傷をつけるのは怖いし嫌だ、でも。そう前置きをしてから英知は昨日と同じ目で柊羽を射抜いた。
沢山沢山考えて、言ったらどうなるだろうと想像して、少し躊躇して、それでも抗えなかったのだ。明確な形を得ることが簡単ではないからこそ。
「俺だって、形に残るものが欲しいんだよ」
____
「新しく開けたのか」
「…珍しく目敏いな」
珍しくとは失礼だなと肩を竦める志季にもっと前からしていたのに気付いてなかったじゃないかと言えば、悪かったなと返される。
自分からは見えないが、きっと志季の目の前で瞬くそれは淡くイエローグリーンを覗かせているのだろう。それを思うと自然と口元が緩んでしまうのだからどうしようもない。やっとファーストピアスを外して英知が送ってくれたそれを身に付ける事が出来て気持ちが浮き立っているのだ。顔に出てしまうのはそれもあるのだろう。
「わざわざ深追いはしないが、双子はなんて?」
「顔に出過ぎて聞く必要がない、と言われたよ」
「だろうな。俺もそれ以上聞く気がしない」
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2026.01.09 22:33:10
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柊英です
愛が重い人よりは、愛が深い人になりたい。そう思っていても愛の形を自分の思い描いた形にするのは難しい。店先で見かけてふと手に取ってしまった時、自分の頭には英知の顔しか浮かばなかった。それがいい例だ。きっと英知は驚いた顔をするだろうし、困ったような顔もするだろう。それでも最終的には分かったと頷いてくれるのも分かるから、つくづく自分は英知の優しさに甘えているのだと思い知る。きっと重たいなんて思われてしまうのだろうけれど、形に残るものがあるとどうしたって安心するのだ。
「おかえり、柊羽。今日って夜までじゃなかった?」
「かなり早く終わったんだ。壱星と壱流は?」
「まだ撮影。柊羽とは反対で撮影が押してて帰りが遅くなるって」
共有ルームの窓から見える空は夕暮れ時のオレンジと夜の紺が混ざり合っていた。夏がすぎて随分と日は短くなり、あと1時間もすれば空は夜闇の紺色で染まってしまうだろう。壱星と壱流が帰ってくる頃にはきっと夕暮れなんて欠片も残っていないに違いない。けれどそれならば好都合とキッチンで飲み物の準備をしてくれている英知を手招く。丁度用意が出来たのだろう英知の手には2つのグラスがあった。
「英知、少しお願いがあるんだ」
「珍しいね。なになに、俺に出来ることなら何でも言って」
柊羽の向かいに座りながら手にしていたグラスを1つくれる。中には麦茶が入っていた。ここ暫く夏の名残が消えないまま今でも英知が冷蔵庫に作りおいていた麦茶は、1口含めば何となく夏の気配を感じさせる。けれど最近はやっと涼しい日が増えてきたから、今冷蔵庫に入っている分がなくなったら今年の麦茶は終わりだろう。そう思うとただの麦茶なのに少しだけ勿体ない気すらする。そんなことを考えながら帰りがけに買ってきた小さな紙袋をテーブルに出す。
「これを、お願いしたいんだ」
開けていいかと聞く英知に勿論と返せば、紙袋の大きさに合わせるように少しだけ肩を縮こまらせて封を開けていく。無意識なのだろうけれど、小さな物を扱う時に自分も小さくなる姿が可愛いと思う。
「ピアッサー…?」
「ああ。これで英知に」
そこで英知が手にしているピアッサーをついと指差す。柊羽の指の先を追うように視線が手元へと落とされる。その視線をさらに誘導するように今度は柊羽自身の、右耳へと向ける。
「ピアスを開けてほしい」
大きい瞳がまあるく開かれて、瞬きをしながら柊羽の言葉を咀嚼していく。想像していた通り、驚いた顔をしている。グラスの中の麦茶は柊羽の分だけその量を減らして、英知の分は殆ど減らずに残されていた。
「…俺が、柊羽に?」
「そうだ。英知に、開けてほしい」
「えっ、いやいや、そんな急に言われても、えっ、てか、事務所に許可は」
焦ったように口を動かし出した英知の姿に笑いながら、仕事から戻る移動車の中で全部済ませたと言えば英知はそっと口を閉ざして手の中のピアッサーを握りしめた。ドラマの仕事だけでなく、柊羽が抱えている仕事自体がある程度片付いて時間に余裕がある。その今だからこそ出来ることなのだ。少しだけ、英知の眉間に皺が寄って、どうして急になんて顔をする。意図が読めないと柊羽の言葉を待つ英知の、ピアッサーを握り締めた手にそっと自分の手を重ねる。これはそんなに怖いものじゃあない。開けたことが無い人から見たらそれはちょっと怖いものかもしれないけれど、そんな怖くはないのだ。ほんの一瞬の痛みなんて、怖くない。
「何か、形に残るものが欲しいんだ」
「残るもの、」
「消えなくて、ずっと残るもの。見る度に思い出せるもの。…なんて、流石に重たいな」
目に見えない繋がりは尊く美しいものだ。それは痛いほどに分かっている。いつだって誰かに助けられて、愛されて、守られて柊羽は今ここにいて、それらはどれも目に映らない。そこに見える形を求めてしまえば途端にその尊いものはその輝きを変えて重さを増してしまう。それが分かっているけれど、それでも柊羽は英知から無くならないものが欲しいのだ。永遠なんて、この世にはないのだから。
「重たいとかは思ってない、ていうかそれはいいんだ。ただ、柊羽を傷付けるようなことだから、ちょっと、びびってる」
柊羽に求められるのは嬉しいんだよ、そう言った英知はそれでもまだ握り締めた手を緩めなかった。
「ピアスなんてみんなやってるし、別に大怪我するようなのじゃないのは分かるんだけど、傷を付けるのって、怖い」
「優しいな」
「優しくなんて」
「優しいさ。自分が痛いわけでもないのに、そんな顔をしてるんだからな」
嫌なら嫌と言えばいいのに、そう言わないのだって英知の優しさだ。こんなお願い聞けないと言えば柊羽は簡単に引き下がるのを知っている筈なのに。永遠なんて存在しないからこそ、永遠に残るものが欲しい。ふとした瞬間に感じられる確かな形が欲しい。あんまりにも重たくて、ともすれば相手を押し潰してしまうかもしれない。それが今なのか明日なのかそれともずっと先なのかは分からないのだけど。愛が重い人よりは深い人がいい。そうは思っていたってなかなかどうして、上手くはいかない。
じっと黙り込んでいた英知が大きく息を吐き出した。ピアッサーを握る手を緩めて、空いた手を柊羽の手に重ねる。持ち上げられた英知の目が真っ直ぐに柊羽を射抜いた。
「分かった。開ける」
「ありがとう」
「でも」
先程までの迷いなんてどこかに追いやってしまった英知の言葉は何かを決意したように凛と響いた。
「明日まで待って。そんなこと言われたら、俺だって柊羽と一緒だよ」
言葉の意味を考える前に玄関が開く音がした。その音が終わりの合図と言わんばかりに柊羽から手を離すと、英知はピアッサーを素早く紙袋に戻してしまった。これは明日まで俺が預かるから。その言葉に頷くことしか出来ない。それから直ぐに聞こえた足音に英知の目が和らいで、先程の柊羽を射抜いた視線はどこかへ行ってしまった。
「ただいま」
「ただいま!」
「おかえり、イッセー、イッチー!」
気がつけば窓の外は真っ暗で、夕暮れの名残はなかった。
____
「柊羽、今夜少しだけいい?」
「勿論」
壱星と壱流が眠った後、柊羽の元へとやってきた英知の手には昨日の紙袋の他にもう1つ別の紙袋があった。中身の見えないそれに何が入っているのか、それを聞く前に英知の手が柊羽の手を取る。掌を上にするようにして持ち上げられたそこに、柊羽の知らない紙袋が置かれる。
「本当は夜じゃなくて昼間に出来たら良かったんだけど、仕事があって。ごめん」
「それは仕方ないことだし、そもそも俺の我儘だから気にしなくていい。…これは?」
「開けてみて」
柊羽から目線を逸らした英知には触れずに、渡された紙袋の封を開ける。その間に英知がぽつりぽつりと、まるで言い訳をするかのように言葉を重ねていく。それを聞きながらじわじわと自身の頬に熱が集まって、同時にむず痒いような喜びが湧いてくる。ああ、昨日英知が言っていたことの意味はそういうことだったのか、と。
「色物はあんまり好きじゃないんだろうなとは思ってるけど、それでも渡したくて、…一応これでも店先ですっごい悩んで!悩んで、やっと見つけたやつなんだ。なるべくシンプルに、でも、俺のことを忘れられない、色」
柊羽の掌の中、当たる光の角度によって様々な色へと変わる小さなそれは、時折淡く透き通ったイエローグリーンを覗かせた。シンプルに石だけの飾り気のないそれは、けれど様々に色を変えていく。まるで英知のようにころころと表情を変えていく。
口元がだんだん緩んでいくのが分かる。英知が小さくそんなに笑わないでよと呟いた。
「とても綺麗な色だな」
「ルミナスグリーンって言うらしいよ。見かねた店員さんが教えてくれた」
「よっぽど仲良くなったんだな」
「だってすっごい悩んだんだよ!…本当は、ちゃんとした宝石とか使った、もっといいやつが良かったんだろうけど、俺にはそれが一番だと思ったんだ」
天然ではなく人工的に作られた小さな石の価値も値段も知らないけれど、英知が店先の店員と親しくなるほどあれこれと時間を掛けて選んでくれたひとつのピアスはそれだけで金には替えられない価値がある。いくら積まれたって人に渡せやしないし、いくら払ったって柊羽の手の中に収まるこれと同じものは存在しない。朝起きて、ベッドサイドのテーブルに置かれたこれが美しくイエローグリーンに瞬く、それを手に取って英知が示してくれたそこに宛てがう。想像するだけで胸が満たされるようだった。
「まるでプロポーズだな」
「お返しだからね」
英知は徐に柊羽の右耳へと手を伸ばした。いやに熱い手が柊羽の薄い耳たぶに触れる。本当はどんなに小さいものでも誰かに傷をつけるのは怖いし嫌だ、でも。そう前置きをしてから英知は昨日と同じ目で柊羽を射抜いた。
沢山沢山考えて、言ったらどうなるだろうと想像して、少し躊躇して、それでも抗えなかったのだ。明確な形を得ることが簡単ではないからこそ。
「俺だって、形に残るものが欲しいんだよ」
____
「新しく開けたのか」
「…珍しく目敏いな」
珍しくとは失礼だなと肩を竦める志季にもっと前からしていたのに気付いてなかったじゃないかと言えば、悪かったなと返される。
自分からは見えないが、きっと志季の目の前で瞬くそれは淡くイエローグリーンを覗かせているのだろう。それを思うと自然と口元が緩んでしまうのだからどうしようもない。やっとファーストピアスを外して英知が送ってくれたそれを身に付ける事が出来て気持ちが浮き立っているのだ。顔に出てしまうのはそれもあるのだろう。
「わざわざ深追いはしないが、双子はなんて?」
「顔に出過ぎて聞く必要がない、と言われたよ」
「だろうな。俺もそれ以上聞く気がしない」
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