薄明

ごじょうさとる×ふしぐろめぐみ
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早寝遅起き

「ん」
「……ありがと…?」
 風呂から上がってリビングに伏黒がいないと思っていたら寝室にいた。五条が風呂に入っている間にちゃっかりリビングの片付けも全部済まして、なんなら電気まで消して、すっかり寝るための準備をして。
 今すぐ寝室に来いと言わんばかりの様子に誘われるままに向かえば、ベッドのど真ん中に伏黒が胡座をかいて座っていて、五条を見るなり「ん」とだけ言ってから両手を広げたのだ。この広げられた両腕に五条が何をしないといけないのかは分かる。が、真意は読めない。頭の中にクエスチョンマークをいくつも浮かべながらも有難く両腕を広げて伏黒を抱き締めれば、五条と同じシャンプーとボディーソープの香りがした。湯上りの温もりがまだ伏黒の中に残っていて、それがまた心地よい。
「あったかー……」
 全身から伝わる温もりに感じ入るように思わず瞳を閉じれば、身体が重くなった気がした。
 重くなった身体と重力に従って伏黒ごとベッドへと倒れ込めば、何も言うことなく五条の下敷きになる。ベッドのスプリングが軋んだ音を立てた。肩口に顔を埋めた五条に擦り寄るように伏黒が頬を寄せる。
「寝ますよ」
「んー?」
「今日はこのまま寝ます」
 伏黒の言葉に顔をあげようとした五条を制すように、いつの間にか後頭部に回っていた伏黒の手のひらに押さえ付けられる。ぽかぽかと芯から暖かい伏黒に抱きしめられ、五条が好きな香りに包まれる。
 元々今日はそういうことをする予定ではなかった。ただ寝る前にリビングのソファやベッドでじゃれあったりして、そのじゃれあいの延長で寝落ちでもしようかと思っていた。たぶん、伏黒もそのつもりだった筈だ。そういう、まだ寝るには少しだけ早い時間。
「まだ早くない?」
「だって疲れてるでしょう」
 とうとう足を五条の身体に巻き付けて、意地でも起こさないと強い意志を見せつけながら伏黒が五条の頬を手のひらで包み込んで持ち上げた。無理やりに目線を合わされる。
「顔、疲れてますよ。珍しく隈もある」
「うそぉ」
「嘘じゃない。このまま寝ますよ」
「恵潰れちゃう」
「いいですよ、それで」
 ぱっと手を離したかと思うと、再び肩口に顔を埋めさせられる。どうやら本当にこのまま五条を寝かせるつもりらしく、五条が身動ぎしても伏黒はもう何も言わなかった。
 じわじわと伏黒の体温が染み込んで、眠気を誘う。五条と同じものを使っている筈なのに、伏黒からするシャンプーの香りは特別な気がした。このまま寝たら伏黒がぺちゃんこになってしまう、なんてことを考えるがどうやら五条が思っているより身体は疲れていたらしく、気がついたら意識はどこかへ行っていた。


 ふと目を覚ますと、何だか身体は軽くなった気がするし、頭もすっきりしている気がする。そのすっきりした頭で寝る前に伏黒を下敷きにしていたことを思い出す。
「…………すごいな」
 伏黒は未だに五条の下敷きになっていたが、何も気にすることなく寝息を立てていた。ベッドと五条に挟まれて暑かったのか、少しだけ頬が赤いが本人は何も気にした様子はない。よく寝る子だとは思っていたけれど、これでも寝るとは。
 そして昨夜伏黒を押し倒したまま寝たのにも関わらずしっかりと布団が掛けられていることにも気がつく。伏黒が動いた様子はないのに何故だろうと一瞬考えて、直ぐに答えに気がついて思わず笑う。きっと五条の眼じゃなかったら気付かない。ほんの少し、本当にうっすらと伏黒の呪力が残っていた。きっと何がしかの式神を使って布団を五条の背中まで運んだのだろう。そこまでするなら適当に五条を退かせばいいのに。
「結構大事にされてるよね、僕」
 伏黒の身体から起き上がり、先程まで自分に掛かっていた布団を今度は伏黒へと被せる。健やかな寝息を立てている様子を少し眺めてから、朝を通り越して昼に少し近いベッドルームを抜け出した。
 寝起きの伏黒は何を食べたがるだろう。

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