薄明

ごじょうさとる×ふしぐろめぐみ
 非公式二次創作ブログサイト

メイン

不器用
ごじょ誕

 病院、というものが少し苦手だ。仄かに香る薬品の臭いや、歩けばいやに響く床、これから死ぬ人とこれから生きる人が混在した空気、慌ただしく駆けていく誰かの気配。津美紀が眠っている病院は五条が手配しただけあって大きくて、余計にその生きるだとか死ぬだとかそういうものが生々しい場所だった。ここにずっといる方が生気だとか目に見えない何かが真っ白な壁に吸い込まれて死んでしまうんじゃないか、そんな気すらしていた。起きるのを待つしかない、というのは嫌な想像ばかり掻き立てる。
 今日も津美紀は静かに寝息だけを立てていた。
見舞いの品を持っていっても減りやしないから自然と何かを持っていくのはやめた。ぽつりぽつりと最近あったことを話して、それでも瞼はぴくりとも動かない。元々大して話すことがあるでもない日常だ、あっという間に話すことはなくなってベッド脇のパイプ椅子の上で自然と口数が減っていく。
「お見舞い、付き合ってもらってすいません」
「いーよ。今日休みだし、たまには僕も様子見ないとだし」
 何となくその無言が気まずくて、そう詫びれば伏黒の考えていることを読んだのか気にするなと頭を小突かれた。
「…今日、誕生日でしょう」
 しおらしい。いつもはこんなこと言わない。なのにこうして病室に入ると色々な事が思い出されて急に弱気になる。去年までは津美紀が主催で五条のも伏黒のも誕生日を祝っていたことを思い出して尚のこと。何もかも世話になっている癖に伏黒はそういう祝い事に関してとんと不器用だった。
「だからいいって」
 だから気にするなと再度頭を小突かれる。横目で見た五条は緩く目を細めて笑っていた。
 津美紀は何も知らない。津美紀が寝ている間に伏黒がもうすぐ中学を卒業することも、今住んでいる家を引き払って寮に入ってしまうことも、五条と伏黒の関係が変わったことも。今の五条の目が、津美紀には向けられたことがないものだということも。
 五条の指先が頬に柔く刺さる。不格好に頬が歪む。五条との関係が変わって、初めての誕生日だった。伏黒は祝い事を祝うのが下手くそだ。この部屋にいれば、尚のこと。
「じゃあ津美紀が起きた時に2人で今年の分とまとめて祝ってよ。今年はツケってことでさ」
「誕生日のツケって」
 大事な人の大事な日に何かをしてやる、そういう優しさを津美紀から教わって、五条からも教わっている。それでも伏黒はまだ上手く教わったことを行動に移せない。
「だから僕より先に死なないでよ」
 それはちょっと、荷が重いな。なんて言えなかった。

畳む

小説 編集

Powered by てがろぐ Ver 4.2.0.