薄明
ごじょうさとる×ふしぐろめぐみ
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夏祭り
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「祭りに浴衣、夏っぽくていいね」
「…あんたが着せに押し掛けてきたんでしょうが」
溜息を吐き出しながら伏黒は慣れない浴衣に居心地悪そうに自身の腕を撫でた。裾から見える白い腕がシンプルな紺の浴衣によく映える。
「夏は満喫しなきゃね。じゃ、行こっか」
手を取ったらきっと怒られる。それが分かっているからそのまま人でごった返している屋台の並ぶ通りへと足を踏み入れた。人より頭1つ分程ある背丈のおかげで見晴らしもよく道に困ることも無い。からりと鳴る下駄の音と共に五条の隣を歩く伏黒の黒い頭は時折人に埋もれるけども。
花火大会があるから行こうと提案したのは五条だ。多忙な五条に夏休みなどというものは存在しないが、運良く高専からそれほど遠くない場所にある花火大会の日に限って何の予定もなく空いていたのだ。急な呼び出しでも無ければ丸一日オフとなる。この花火大会に行こうと決めた時点でスマートフォンの電源はオフにして急な呼び出しなぞ無かったことにするつもりではあったが。
そうして浴衣片手に伏黒の部屋に押し掛けて今日に至る。伏黒に着せるのだから自分も着ないでどうする、ということでお互い浴衣姿なのがまた夏らしくていい。
「とりあえずベタにかき氷からかな。味どーする?」
「…メロンで」
「おっけー」
1番に見つけたかき氷の屋台の前で当たり前のように五条に奢ってもらうつもりの伏黒は、少し考えてからメロンと書かれたシロップを指さした。見るからに身体に悪そうな色をしたシロップは、けれど氷にかけられるだけで途端に美味しそうに見えるのだから不思議だ。
目の前で削られてカップに盛られていく氷にこれでもかとかけられるシロップ。五条はブルーハワイで伏黒はメロン。お祭り価格のそれを受け取って再び歩き出す。
花火が打ち上がるまであとどれ位なのか。確認しようにも腕時計をしていない上にスマートフォンの電源は落としてあるから分かりやしない。伏黒に聞けばいいのだが、この大雑把さもまた祭りの醍醐味であろうと適当な理由をでっち上げて五条はかき氷を食べながら1度人混みから離れた。
「どこ行くんですか」
「花火見えそうな所」
「あんたの身長なら場所なんて関係ないでしょう」
「恵も見えないと意味ないじゃん」
そう言うと押し黙る姿が可愛い、なんて言えば機嫌を損ねてしまうだろう。何をしたって五条からしてみれば愛らしいことに変わりはないのだが、伏黒はそんなこと知らないし知らなくていい。
少しずつカップの底に薄くなったシロップが溜まりはじめた頃。人混みから離れて人気も屋台周辺に比べれば随分とましになった通りを歩いていると遠くから聞き覚えのある破裂音が聞こえた。花火が打ち上がり始めたのだ。
「お、始まったね。さっさとこっち来てよかった」
最初の1発を合図に次から次へと打ち上がる花火に、本当はこの後チョコバナナもりんご飴も食べたかったが早めに移動して良かったと思った。本来の目的はこれなのだから。食べるのなんて帰りにでも寄れば十分だ。
周りにいた人々が打ち上がる花火に歓声を上げる。誰も彼もみんな空を見上げては丸く広がる花火に見蕩れていた。それは伏黒も同じことで、かき氷を掬い上げていた手を動かすのを忘れてじっと見入っていた。濃い緑の瞳に光が反射して、きらきらと瞬いていた。中途半端に持ち上げられていたストロー型のスプーンの上の氷が溶けて、ストローを伝い静かに伏黒の手のひらへと流れ落ち、腕へと流れる。
ぱっと空に開いた花火が、流れた氷に驚いた伏黒の横顔を照らす。
「恵」
浴衣から伸びる白い腕は夏の夜によく映える。伝う氷水だってそうだ。腕を掴めば僅かにぬるくなった水が五条の手を濡らす。ぐっと腕を持ち上げ、肘まで伝い始めていたそれを舐め取ればひくりと腕が震えた。
「浴衣、汚れるよ」
「っ、あんた、ここをどこだと…!」
「みんな花火しか見てないって」
寧ろ騒ぐとこっち見られちゃうよ。そう言うと伏黒はこちらを睨みつけて腕を振り払った。みんな花火に夢中で五条達なんて見てやしない。見られたところでもう会うこともない他人だ、気にすることでもない。
どん、と身体に響くような音がして、少しの時差でもって一際大きな花火が空に広がった。暗闇を照らす花火の中、伏黒の耳は赤く染まっていて。
「……可愛いね」
その言葉は次に打ち上がった轟音で掻き消された。
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2023.09.06 21:09:18
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「祭りに浴衣、夏っぽくていいね」
「…あんたが着せに押し掛けてきたんでしょうが」
溜息を吐き出しながら伏黒は慣れない浴衣に居心地悪そうに自身の腕を撫でた。裾から見える白い腕がシンプルな紺の浴衣によく映える。
「夏は満喫しなきゃね。じゃ、行こっか」
手を取ったらきっと怒られる。それが分かっているからそのまま人でごった返している屋台の並ぶ通りへと足を踏み入れた。人より頭1つ分程ある背丈のおかげで見晴らしもよく道に困ることも無い。からりと鳴る下駄の音と共に五条の隣を歩く伏黒の黒い頭は時折人に埋もれるけども。
花火大会があるから行こうと提案したのは五条だ。多忙な五条に夏休みなどというものは存在しないが、運良く高専からそれほど遠くない場所にある花火大会の日に限って何の予定もなく空いていたのだ。急な呼び出しでも無ければ丸一日オフとなる。この花火大会に行こうと決めた時点でスマートフォンの電源はオフにして急な呼び出しなぞ無かったことにするつもりではあったが。
そうして浴衣片手に伏黒の部屋に押し掛けて今日に至る。伏黒に着せるのだから自分も着ないでどうする、ということでお互い浴衣姿なのがまた夏らしくていい。
「とりあえずベタにかき氷からかな。味どーする?」
「…メロンで」
「おっけー」
1番に見つけたかき氷の屋台の前で当たり前のように五条に奢ってもらうつもりの伏黒は、少し考えてからメロンと書かれたシロップを指さした。見るからに身体に悪そうな色をしたシロップは、けれど氷にかけられるだけで途端に美味しそうに見えるのだから不思議だ。
目の前で削られてカップに盛られていく氷にこれでもかとかけられるシロップ。五条はブルーハワイで伏黒はメロン。お祭り価格のそれを受け取って再び歩き出す。
花火が打ち上がるまであとどれ位なのか。確認しようにも腕時計をしていない上にスマートフォンの電源は落としてあるから分かりやしない。伏黒に聞けばいいのだが、この大雑把さもまた祭りの醍醐味であろうと適当な理由をでっち上げて五条はかき氷を食べながら1度人混みから離れた。
「どこ行くんですか」
「花火見えそうな所」
「あんたの身長なら場所なんて関係ないでしょう」
「恵も見えないと意味ないじゃん」
そう言うと押し黙る姿が可愛い、なんて言えば機嫌を損ねてしまうだろう。何をしたって五条からしてみれば愛らしいことに変わりはないのだが、伏黒はそんなこと知らないし知らなくていい。
少しずつカップの底に薄くなったシロップが溜まりはじめた頃。人混みから離れて人気も屋台周辺に比べれば随分とましになった通りを歩いていると遠くから聞き覚えのある破裂音が聞こえた。花火が打ち上がり始めたのだ。
「お、始まったね。さっさとこっち来てよかった」
最初の1発を合図に次から次へと打ち上がる花火に、本当はこの後チョコバナナもりんご飴も食べたかったが早めに移動して良かったと思った。本来の目的はこれなのだから。食べるのなんて帰りにでも寄れば十分だ。
周りにいた人々が打ち上がる花火に歓声を上げる。誰も彼もみんな空を見上げては丸く広がる花火に見蕩れていた。それは伏黒も同じことで、かき氷を掬い上げていた手を動かすのを忘れてじっと見入っていた。濃い緑の瞳に光が反射して、きらきらと瞬いていた。中途半端に持ち上げられていたストロー型のスプーンの上の氷が溶けて、ストローを伝い静かに伏黒の手のひらへと流れ落ち、腕へと流れる。
ぱっと空に開いた花火が、流れた氷に驚いた伏黒の横顔を照らす。
「恵」
浴衣から伸びる白い腕は夏の夜によく映える。伝う氷水だってそうだ。腕を掴めば僅かにぬるくなった水が五条の手を濡らす。ぐっと腕を持ち上げ、肘まで伝い始めていたそれを舐め取ればひくりと腕が震えた。
「浴衣、汚れるよ」
「っ、あんた、ここをどこだと…!」
「みんな花火しか見てないって」
寧ろ騒ぐとこっち見られちゃうよ。そう言うと伏黒はこちらを睨みつけて腕を振り払った。みんな花火に夢中で五条達なんて見てやしない。見られたところでもう会うこともない他人だ、気にすることでもない。
どん、と身体に響くような音がして、少しの時差でもって一際大きな花火が空に広がった。暗闇を照らす花火の中、伏黒の耳は赤く染まっていて。
「……可愛いね」
その言葉は次に打ち上がった轟音で掻き消された。
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