薄明

ごじょうさとる×ふしぐろめぐみ
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キス・ミー・クイック
柊英です


「…珍しいな、英知がそんなに飲んでくるなんて」
 どこか覚束無い足取りで共有ルームに入ってきた英知にそう言えば、眉を下げて「断りきれなくて」とへにゃりと笑った。
 日付も変わってしまった深夜に近い時間。もうとっくに壱星と壱流は寝てしまって、柊羽だけが英知の帰りを待っていた。現場で飲みに誘われた英知からの先に寝ててという連絡を聞かなかったことにして待っていたのだ。柊羽が同じように飲みの席に誘われて同じ連絡をしても、英知はそれを守らないように。
 英知をソファに座らせ、氷を浮かべた水の入ったグラスを渡す。受けとったのを確認して隣に腰掛けると、英知は少し視線を泳がせた。
「ありがと」
「…どうした?」
「いやー…今のおれ、お酒臭いからちょっと離れたほうがいいかなって」
 そう言ってから一人分の隙間を空けて英知が座り直す。
 うっすらと赤い頬と、いつもより水分が多めの瞳、ちょっとだけ覚束無い足取りに言葉。別に会話に困るほど泥酔しているわけでもないし、英知が言うほど酒の臭いがするでもない。ただちょっとだけ、酒の気配を感じるくらいだった。
「別に気にしないよ」
「…そう?」
「ああ。それに、誘われた時くらい好きに飲んできたらいい」
 英知は柊羽と違って酒が飲めないわけじゃない。どれほど飲めるのかは分からないが、人並みには飲める(と柊羽は勝手に思っている)だろう。柊羽といる時は何かと合わせてアルコール類は口にしないが、なにも柊羽本人がいない場でもそうすることはない。本当は柊羽がいる時でも気にしないで好きにしてもらいたいくらいなのだけど。
「んー…柊羽がそう言ってくれるのはうれしいんだけど、おれが勝手に飲みたくない、というか」
 グラスに口を付けたまま、英知が埋もれた声で歯切れ悪く言う。
「飲みたくない?」
「…酔っ払いの言ってることだから、…忘れてね?」
「内容による」
 柊羽の言葉に英知がゆるりと目を細めて笑う。それからソファに空いた一人分の隙間を半分だけ埋めるように少しだけ柊羽の近くに座る。1口水を呷った英知の喉仏が大きく動いた。
「お酒飲んじゃうとさ、柊羽とキスできないじゃん」
 だから飲みたくない。そう言って英知は気恥しそうに、誤魔化すように小さく笑った。こんな話が聞けるなら、酒が飲めない事に感謝したくなる。大きく溜息を吐き出して、そう思う。
「…いくらなんでも、そこまで弱くない……と思うし、」
「思うし?」
「…あんまり可愛いことを言われると、どうにかしたくなる」
 楽しくなってきたのか、酔いがまた回ってきたのか、さっきの歯切れの悪さをどこかにやって英知がふふと笑う。明日仕事だからなぁ、なんて間延びした声も。
 どこまで本当に酔っているのか分かりやしないけれど、「じゃあキスできるかだけ確かめよっか」という英知の誘いには乗らない訳がない。ふわ、と甘いカクテルの匂いがして頭の片隅で随分と出来すぎた酔っ払いだと思った。

 
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