薄明

ごじょうさとる×ふしぐろめぐみ
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ナンパごっこ

 夏の日差しが伏黒の頭上に強く差し込む。背後に大きく育った木があるお陰で何も無いよりは大分マシだが、それでもベンチはすっかり温められているし、シャツの下で汗が背中を伝うのが分かった。時刻は11時40分。気温のピークが近い。
 待ち合わせ場所に指定された公園には思いのほか走り回る子供や、ジョギングしている老夫婦がいる。伏黒の座るベンチから少し歩いた所にはアイスの路上販売もしているが、しかし日陰から出て日向を歩く気はしなかった。
 バックライトを最大にし、夏の日差しに負けないようにした代わりにスマホも熱を持ち始めていた。若干見づらいスマホを操作してメッセージアプリを開く。「どこにいるんですか」と打ち込めば、直ぐに既読が付いたが返事は無い。
「…っとに……」
 舌打ちが出そうになった時、伏黒の前に日陰が現れた。スマホの画面が一気に見やすくなる。
「お兄さん、なにやってんの?」
「…待ち合わせ」
 顔も上げない伏黒を気にもせず、目の前に現れた男は伏黒の横に腰掛けた。ベンチが軋んだ音を立てる。じっとりとしたまとわりつく気温に人の体温も追加されて、伏黒はため息を吐き出した。
「結構汗かいてるけど、だいぶ待ってんの?」
「10分遅れ」
「こんな暑いのに?薄情だね~」
 メッセージアプリに打ち込む。「何してるんですか」。しかし今度は既読は付かなかった。
 スマホを見たまま男の方を見ようともしない伏黒に痺れを切らしたのか、男の手が伸びてきた。気温に対して腕を掴んできた男の手は冷たかった。何か冷たいものでも持っていたのか。
 そのままぐいと伏黒を引き寄せて、無理やりに男の方を向かせる。男と思っていたより近い距離で目が合う。サングラスに機嫌の悪そうな伏黒の顔が映っていた。
「怒ってんの?」
「当たり前でしょ。クソ暑い中待たせて。よく分からない小芝居するんだったらまずは詫びてくださいよ」
「アイスコーヒー買ってきたんだけど、それじゃ駄目?」
 五条が笑いながら伏黒の頬に自販機で買ってきたのだろう缶コーヒーを押し付ける。買ってきたばかりなのか、まだ随分と冷たい。熱を持った身体にはひどく気持ちよかった。が、それに絆されてしまう程夏の日差しは甘くなかった。
「…アイス。あそこで売ってるやつ」
 五条から缶コーヒーを受け取りながら、路上販売店を指さす。指さした先を見た五条がにまりと笑って「トッピング全盛りとかする?贅沢に」と言うが、そこまではいらないと首を横に振る。
「普通の1個でいいです」
「何個でも重ねられるけど」
「1個で」
「はいよ」
 立ち上がった五条がアイスを買いに向かう背中を見ながら、買ってきてくれた缶コーヒーを1口飲めば火照った身体が少し冷やされる。そこでアイスの味を指定しなかったことを思い出すが、そもそもラインナップが分からないことにも気付く。けれど五条だったら適当に伏黒が好みそうなものを買ってきてくれるだろう。もしかしたら、トッピング全盛りで。

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