薄明
ごじょうさとる×ふしぐろめぐみ
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2025年4月 この範囲を時系列順で読む この範囲をファイルに出力する
2025年3月 この範囲を時系列順で読む この範囲をファイルに出力する
香水
「風呂、入ってきてください」
む、と眉間に皺を寄せた伏黒が人の顔を見るなりそう告げた。なんなら玄関に立ち尽くす五条から少し距離まで取られ、思わず自分のシャツの襟元を嗅ぐ。任務やら何やらを終えて帰宅したばかりとはいえ別に汗臭くはない、はず。呪霊の変な体液を浴びたでもないし、呪詛師の返り血を浴びたでもない。
しかし強いて何か匂うとするなら、香水くらいか。今日は任務の後に御三家のお堅い集まりがあったのだ。乗り気じゃない集まりだったが、一応当主としての最低限の身嗜みとして、軽くワンプッシュ。
「臭い?」
「臭いっていうか…俺、その匂い嫌いです」
「その匂い?」
「五条さんが家の集まりとかでたまにする香水」
少し口を尖らせた伏黒が、ふいと顔を逸らした。少し拗ねたような顔。
今までにもこの香水を使ったことは何度もある。任務以外にも何かと呼ばれることは多く、場によっては使うことがあった。伏黒だって今日初めて嗅いだものではない筈なのに、どうして今になって。今までと今日、何が違うか玄関で靴も脱がずに考える。
最後に使ったのはいつか。伏黒の前でこの香りを纏ったのはいつか。記憶を辿って、少しの間。伏黒が痺れを切らしたところで「あ、」と答えに気付く。
「いいから早く風呂に、」
「僕の匂いしなくて嫌なんだ!?」
ぴたりと伏黒の動きが止まる。それからじわじわと頬に色が乗る。
つい最近までもこれを使うことは何度もあったが、この香りを残したままで伏黒と顔を合わせたのは随分と前のことだった。伏黒が中学に上がったばかりの付き合う前。あの時は新年の集まりが終わるなりその足でアパートに遊びに行ったのだったか。その時と変わったことといえば伏黒との関係。付き合うようになって、当然触れ合いもずっと近くなった。セックスの時、伏黒は自分の首元に顔を埋めて深く息を吸うのが好きなのも、今は知っている。
伏黒は、五条の匂いが好きなのだ。
「今までこれ付けてる時は会わなかったり、会う前にシャワー浴びてたりしたから全然意識してなかった。そっか、これしてたら邪魔だよね」
靴を脱いで玄関から一歩踏み出す。言い当てられて伏黒は首まで真っ赤だ。眉間の皺はそのままに、けれどなんて答えればいいのか分からないというようにはくはくと口を開け閉めしている。
「ダッシュでシャワー浴びてくる!ちょっと待っててね。あと香水は捨てる!」
「っべ、別に、捨てなくて、いい……俺の前で、しないでくれたら…」
伏黒の手を引いてリビングに放り込んで、自分はどたばたとバスルームに駆け込みながら言えば、もごもごといじらしいことを言う。
そういえば香水はどうやって捨てればいいんだろうか。この間買い直したばかりで中身の残ったそれを思い浮かべながら、五条はバスルームの扉を勢いよく閉めた。
畳む
「風呂、入ってきてください」
む、と眉間に皺を寄せた伏黒が人の顔を見るなりそう告げた。なんなら玄関に立ち尽くす五条から少し距離まで取られ、思わず自分のシャツの襟元を嗅ぐ。任務やら何やらを終えて帰宅したばかりとはいえ別に汗臭くはない、はず。呪霊の変な体液を浴びたでもないし、呪詛師の返り血を浴びたでもない。
しかし強いて何か匂うとするなら、香水くらいか。今日は任務の後に御三家のお堅い集まりがあったのだ。乗り気じゃない集まりだったが、一応当主としての最低限の身嗜みとして、軽くワンプッシュ。
「臭い?」
「臭いっていうか…俺、その匂い嫌いです」
「その匂い?」
「五条さんが家の集まりとかでたまにする香水」
少し口を尖らせた伏黒が、ふいと顔を逸らした。少し拗ねたような顔。
今までにもこの香水を使ったことは何度もある。任務以外にも何かと呼ばれることは多く、場によっては使うことがあった。伏黒だって今日初めて嗅いだものではない筈なのに、どうして今になって。今までと今日、何が違うか玄関で靴も脱がずに考える。
最後に使ったのはいつか。伏黒の前でこの香りを纏ったのはいつか。記憶を辿って、少しの間。伏黒が痺れを切らしたところで「あ、」と答えに気付く。
「いいから早く風呂に、」
「僕の匂いしなくて嫌なんだ!?」
ぴたりと伏黒の動きが止まる。それからじわじわと頬に色が乗る。
つい最近までもこれを使うことは何度もあったが、この香りを残したままで伏黒と顔を合わせたのは随分と前のことだった。伏黒が中学に上がったばかりの付き合う前。あの時は新年の集まりが終わるなりその足でアパートに遊びに行ったのだったか。その時と変わったことといえば伏黒との関係。付き合うようになって、当然触れ合いもずっと近くなった。セックスの時、伏黒は自分の首元に顔を埋めて深く息を吸うのが好きなのも、今は知っている。
伏黒は、五条の匂いが好きなのだ。
「今までこれ付けてる時は会わなかったり、会う前にシャワー浴びてたりしたから全然意識してなかった。そっか、これしてたら邪魔だよね」
靴を脱いで玄関から一歩踏み出す。言い当てられて伏黒は首まで真っ赤だ。眉間の皺はそのままに、けれどなんて答えればいいのか分からないというようにはくはくと口を開け閉めしている。
「ダッシュでシャワー浴びてくる!ちょっと待っててね。あと香水は捨てる!」
「っべ、別に、捨てなくて、いい……俺の前で、しないでくれたら…」
伏黒の手を引いてリビングに放り込んで、自分はどたばたとバスルームに駆け込みながら言えば、もごもごといじらしいことを言う。
そういえば香水はどうやって捨てればいいんだろうか。この間買い直したばかりで中身の残ったそれを思い浮かべながら、五条はバスルームの扉を勢いよく閉めた。
畳む
まんまる虫
「めずらし」
『……寝れなくて』
恥ずかしさを乗せた声がスマートフォンの向こうから響いた。深夜3時半、任務でもなければとっくに伏黒は寝ている時間。こうして真夜中に電話をかけてくるのは余程のことだ。眠りも浅くて時間もそんなに必要としない自分としては、いつ電話で起こしてくれても構わないのだが伏黒はそれをしない。
『すいません、こんな夜中に』
「どうせ起きてたしいいよ。子守唄でも歌ってあげようか」
『…話が、聞きたいです』
五条の提案を無視して、伏黒が小さくこぼす。どこか元気のないその声には覚えがあった。小学六年生になって背伸びをしたがった津美紀が、友達の家に泊まると言って不在だった日の夜だ。今日みたいに真夜中、当時渡していた子供用の携帯電話を使って伏黒が五条にかけてきたのだ。
「いいよ。つっても仕事ばっかでそんな面白い話ないけど」
『それでもいいです』
スマホの向こうから衣擦れの音が聞こえる。布団の中で丸くなっているのかもしれない。眠れない時、伏黒は布団の中で小さく丸くなるのだ。
今日を振り返りながらぽつぽつと伏黒に語りかける。宿の朝食が伏黒好みの味付けだったとか、現場の周辺を見回っていたら野良猫が井戸端会議をしていただとか、祓除帰りに落ち着いた佇まいの喫茶店を見かけただとか、大きな盛り上がりも驚くようなオチもない話。
五条の話に小さな相槌だけを返していく伏黒はきっとまだ布団の中でまんまるだ。小さく小さく身体を畳んで、布団の真ん中で息を潜めるようにして五条の声を子守唄に眠気がやってくるのを待つ。いつやってくるのかは残念ながら五条にも分からない。
「歯がゆいってこういうことを言うんだよね」
『…何が?』
「もっと近場で任務だったらさ、ダッシュで帰って恵のこと寝かし付けられたのに」
『寝かし付けるって、子供じゃあるまいし』
「子供だよ。まだまだでっかい子供。」
スマホの向こうで吐息の漏れる音。小さく笑った伏黒が「じゃあ子供の特権ですね」と言う。
『忙しい五条先生の時間をこんなことに使わせてるんですから』
「子供の特権じゃなくて、恵の特権。言っとくけど恵がいい歳したオッサンになっても僕の寝かし付けサービスあるからね」
『贅沢すぎる』
くすくすと笑った伏黒が小さく欠伸をこぼす。どうやら伏黒の笑い声につられてやっと睡魔がやってきたらしい。衣擦れの音。しばらくもぞもぞと音が続いたから、もしかしたら布団の中から頭を出したのかもしれない。まんまるになるのをやめて寝る体勢に入ったらしい。
「もう寝れそ?」
『…ん』
津美紀が泊まりでいなかった夜と今夜の伏黒は一緒だ。急に訪れたどうしようもなく寂しい夜が、伏黒のことを布団の中のまんまる虫にしてしまったのだ。本当は沈んだ声で寝れないなんて電話を寄越すほど溜め込まず、こまめに五条に寂しさを吐き出してくれればいいのだが、それが出来るようになるのはまだ先の話だろう。わがままのやり方も甘え方もまだまだ勉強中だ。
「おやすみ」
『おやすみなさい』
その声は最初に掛けてきたのとは違って、もうふにゃふにゃだった。
畳む
「めずらし」
『……寝れなくて』
恥ずかしさを乗せた声がスマートフォンの向こうから響いた。深夜3時半、任務でもなければとっくに伏黒は寝ている時間。こうして真夜中に電話をかけてくるのは余程のことだ。眠りも浅くて時間もそんなに必要としない自分としては、いつ電話で起こしてくれても構わないのだが伏黒はそれをしない。
『すいません、こんな夜中に』
「どうせ起きてたしいいよ。子守唄でも歌ってあげようか」
『…話が、聞きたいです』
五条の提案を無視して、伏黒が小さくこぼす。どこか元気のないその声には覚えがあった。小学六年生になって背伸びをしたがった津美紀が、友達の家に泊まると言って不在だった日の夜だ。今日みたいに真夜中、当時渡していた子供用の携帯電話を使って伏黒が五条にかけてきたのだ。
「いいよ。つっても仕事ばっかでそんな面白い話ないけど」
『それでもいいです』
スマホの向こうから衣擦れの音が聞こえる。布団の中で丸くなっているのかもしれない。眠れない時、伏黒は布団の中で小さく丸くなるのだ。
今日を振り返りながらぽつぽつと伏黒に語りかける。宿の朝食が伏黒好みの味付けだったとか、現場の周辺を見回っていたら野良猫が井戸端会議をしていただとか、祓除帰りに落ち着いた佇まいの喫茶店を見かけただとか、大きな盛り上がりも驚くようなオチもない話。
五条の話に小さな相槌だけを返していく伏黒はきっとまだ布団の中でまんまるだ。小さく小さく身体を畳んで、布団の真ん中で息を潜めるようにして五条の声を子守唄に眠気がやってくるのを待つ。いつやってくるのかは残念ながら五条にも分からない。
「歯がゆいってこういうことを言うんだよね」
『…何が?』
「もっと近場で任務だったらさ、ダッシュで帰って恵のこと寝かし付けられたのに」
『寝かし付けるって、子供じゃあるまいし』
「子供だよ。まだまだでっかい子供。」
スマホの向こうで吐息の漏れる音。小さく笑った伏黒が「じゃあ子供の特権ですね」と言う。
『忙しい五条先生の時間をこんなことに使わせてるんですから』
「子供の特権じゃなくて、恵の特権。言っとくけど恵がいい歳したオッサンになっても僕の寝かし付けサービスあるからね」
『贅沢すぎる』
くすくすと笑った伏黒が小さく欠伸をこぼす。どうやら伏黒の笑い声につられてやっと睡魔がやってきたらしい。衣擦れの音。しばらくもぞもぞと音が続いたから、もしかしたら布団の中から頭を出したのかもしれない。まんまるになるのをやめて寝る体勢に入ったらしい。
「もう寝れそ?」
『…ん』
津美紀が泊まりでいなかった夜と今夜の伏黒は一緒だ。急に訪れたどうしようもなく寂しい夜が、伏黒のことを布団の中のまんまる虫にしてしまったのだ。本当は沈んだ声で寝れないなんて電話を寄越すほど溜め込まず、こまめに五条に寂しさを吐き出してくれればいいのだが、それが出来るようになるのはまだ先の話だろう。わがままのやり方も甘え方もまだまだ勉強中だ。
「おやすみ」
『おやすみなさい』
その声は最初に掛けてきたのとは違って、もうふにゃふにゃだった。
畳む
ひとりごと
出会って13年ほど、うち付き合って5年ほど。最近になって五条さんが何をしたら喜ぶのか学んできた。正しくは学んだというより自信を得た、と言うべきか。これだけ長い付き合いがあれば味の好み、服の趣味、寝る前や朝のルーティンetc.大体のことは知っていく。それでもどこか「これなら喜ぶだろうか」と確信が持てなかったものが、ここ最近は「これは喜ぶな」に変わったのだ。
振り返ってみれば俺が五条さんに何かしたことで不機嫌になることも本気で嫌がられることも殆どなかったのだが、それに気付くのにも同級生いわく鈍い俺は時間がかかった。いや、最初から実らないもんだと思っていて墓まで持っていこうとしていた気持ちなのだ。それが紆余曲折の末に実ったとて、素直に両手を上げてハッピーエンドおめでとうと喜べるだろうか。正直なことを言うと付き合えたのは何かの冗談かもしれないと思っていたのだが、初めて身体を重ねた日の朝に「もしかして俺のこと好きなんですか」と聞いたらちょっと泣かれて「鈍いのも限度があるよ」と言われて少し反省した。
閑話休題。
とにかく五条さんは甘いものが好きだし、服は大きなこだわりはないがシンプルなものを好む、寝る前と朝には1杯の水を飲むのが決まり。そして意外にも俺を困らすよりも、俺に困らされる方が好きだ。
俺は元来いたずらなんて好む方ではないしやろうとも思わないが、それでもふとした思いつきで五条さんにされたいたずらをやり返すとそれはもう嬉しそうにするのだ。俺に面倒くさいお願いごとや我儘を言われても困った顔をしながら嬉しそうに仕方ないなぁと笑う。
あの人が手慰みに俺の頬を揉むように、俺も五条さんの二の腕やら胸板やらの感触を楽しむ時があるのだが、ついこの間ちょっとした出来心で読書のお供にあの人の股間を掴んだ。何故股間かと言われれば、行為の最中にあの人が俺の下半身…竿より下の袋の方をやけに楽しそうに揉んでいたからだ。それがあまりにも楽しそうだったものだから、そんなに触り心地がいいのかと手が伸びた。窘められはしたものの結局本気で止められなかったのだが、なんだかんだで嬉しそうだった。
以下は、時折俺にいたずらをされたり面倒な絡み方をされても嬉しそうな五条さんに理由を聞いた時の台詞だ。
『えぇ?そりゃ嬉しいよ。昔は絶対人には懐きません!みたいな顔してた子が、僕がNOと言わないのを分かってて我儘言って困らせてくるんだから可愛いったらないよね。まぁ恵のあまりの鈍さに泣いた日もあったけど、今となっては笑い話というか…なんなら今こうやって「面倒くさくないですか」て聞いてくるのすら堪んないね。恵がここまで成長するまで長かった。ネガティブになる度に僕が懇切丁寧にしつこいくらい恵のことが好きだって説明した甲斐があったというか…』
以下省略。この後も長々と俺が如何に鈍くて、その度に如何に愛を説いたかを語られて再確認させられたのだがまた別の話だ。どうせなら逃がさず再びじっくり分からせようと、両手を掴まれながら話をひたすらに聞かされて「わーっ!」と叫び出さなかった俺は偉い。
思い出しているとじわりと頬に熱が乗った。日が落ちるとまだまだ冷え込む。五条さんが来るのを待ちながらコートの襟に口元を埋めた。今日は五条さんと夕食を食べに行く予定なのだ。
「なーに難しい顔してんの」
「っ!」
いつの間にか正面に来ていた五条さんに声をかけられて「わーっ!」と叫び出さなかった俺は偉い。脳内でぐるぐると振り返っていた俺は目の前に来ていたことにも気付かなかったらしい。変な汗が背中を伝う。
「やらしいこと考えてた?」
「なわけないでしょ」
「僕のこと?」
「……違うって言ったら?」
「うそつけ!」と嬉しそうに笑った五条さんは俺の手を引いて元気よく歩き出した。今夜は中華だ。
あの日、俺に長々と語った五条さんは最後に言った。
『とまぁ色々言ったけど、これからも気にせず恥ずかしがらずに我儘言って僕を困らせてね。』
畳む
出会って13年ほど、うち付き合って5年ほど。最近になって五条さんが何をしたら喜ぶのか学んできた。正しくは学んだというより自信を得た、と言うべきか。これだけ長い付き合いがあれば味の好み、服の趣味、寝る前や朝のルーティンetc.大体のことは知っていく。それでもどこか「これなら喜ぶだろうか」と確信が持てなかったものが、ここ最近は「これは喜ぶな」に変わったのだ。
振り返ってみれば俺が五条さんに何かしたことで不機嫌になることも本気で嫌がられることも殆どなかったのだが、それに気付くのにも同級生いわく鈍い俺は時間がかかった。いや、最初から実らないもんだと思っていて墓まで持っていこうとしていた気持ちなのだ。それが紆余曲折の末に実ったとて、素直に両手を上げてハッピーエンドおめでとうと喜べるだろうか。正直なことを言うと付き合えたのは何かの冗談かもしれないと思っていたのだが、初めて身体を重ねた日の朝に「もしかして俺のこと好きなんですか」と聞いたらちょっと泣かれて「鈍いのも限度があるよ」と言われて少し反省した。
閑話休題。
とにかく五条さんは甘いものが好きだし、服は大きなこだわりはないがシンプルなものを好む、寝る前と朝には1杯の水を飲むのが決まり。そして意外にも俺を困らすよりも、俺に困らされる方が好きだ。
俺は元来いたずらなんて好む方ではないしやろうとも思わないが、それでもふとした思いつきで五条さんにされたいたずらをやり返すとそれはもう嬉しそうにするのだ。俺に面倒くさいお願いごとや我儘を言われても困った顔をしながら嬉しそうに仕方ないなぁと笑う。
あの人が手慰みに俺の頬を揉むように、俺も五条さんの二の腕やら胸板やらの感触を楽しむ時があるのだが、ついこの間ちょっとした出来心で読書のお供にあの人の股間を掴んだ。何故股間かと言われれば、行為の最中にあの人が俺の下半身…竿より下の袋の方をやけに楽しそうに揉んでいたからだ。それがあまりにも楽しそうだったものだから、そんなに触り心地がいいのかと手が伸びた。窘められはしたものの結局本気で止められなかったのだが、なんだかんだで嬉しそうだった。
以下は、時折俺にいたずらをされたり面倒な絡み方をされても嬉しそうな五条さんに理由を聞いた時の台詞だ。
『えぇ?そりゃ嬉しいよ。昔は絶対人には懐きません!みたいな顔してた子が、僕がNOと言わないのを分かってて我儘言って困らせてくるんだから可愛いったらないよね。まぁ恵のあまりの鈍さに泣いた日もあったけど、今となっては笑い話というか…なんなら今こうやって「面倒くさくないですか」て聞いてくるのすら堪んないね。恵がここまで成長するまで長かった。ネガティブになる度に僕が懇切丁寧にしつこいくらい恵のことが好きだって説明した甲斐があったというか…』
以下省略。この後も長々と俺が如何に鈍くて、その度に如何に愛を説いたかを語られて再確認させられたのだがまた別の話だ。どうせなら逃がさず再びじっくり分からせようと、両手を掴まれながら話をひたすらに聞かされて「わーっ!」と叫び出さなかった俺は偉い。
思い出しているとじわりと頬に熱が乗った。日が落ちるとまだまだ冷え込む。五条さんが来るのを待ちながらコートの襟に口元を埋めた。今日は五条さんと夕食を食べに行く予定なのだ。
「なーに難しい顔してんの」
「っ!」
いつの間にか正面に来ていた五条さんに声をかけられて「わーっ!」と叫び出さなかった俺は偉い。脳内でぐるぐると振り返っていた俺は目の前に来ていたことにも気付かなかったらしい。変な汗が背中を伝う。
「やらしいこと考えてた?」
「なわけないでしょ」
「僕のこと?」
「……違うって言ったら?」
「うそつけ!」と嬉しそうに笑った五条さんは俺の手を引いて元気よく歩き出した。今夜は中華だ。
あの日、俺に長々と語った五条さんは最後に言った。
『とまぁ色々言ったけど、これからも気にせず恥ずかしがらずに我儘言って僕を困らせてね。』
畳む
山なし落ちなしむっつりさん
本当に山なし落ちなし意味なし
猫はクッションや人のお腹を前足でふみふみと揉んでこねることがある。スマートフォンで「猫 ふみふみ」で調べると、その行動の意味はリラックスしているだとか、愛情表現だとか、安心であるとか出てくる。なるほどなぁ、と画面をスクロールしながら一人でうんうんと僕は頷いた。
ということは、恵がいましているこれはリラックス、愛情表現、安心、そのどれなのだろうか。
「…恵、なんで今日はそこを揉んでるのかな?」
恵はちょくちょく猫のふみふみみたいなことをする。僕の身体で、だ。すすすっと僕の横に座ったかと思えば二の腕をマッサージするようにむにむにと揉んでくる時もあるし、布団の中で邪険にするんでもなく僕の胸をぐいぐいと手のひらで押してくるときもある。何を考えているのか分からない顔で、無心で人の身体の感触を堪能するのだ。好きな子との性的なものを含まない温い触れ合いは心地よかったし、小動物に懐かれてるみたいで悪い気もしなかった。だから可愛いなぁと今までは放置していたのだが。
「なんか、触り心地よくて」
「じゃあ自分の触ればいいじゃん」
「俺が変態みたいじゃないですか」
「変態だよ!」
ソファで明日の任務資料を見ている僕の横にやってきたかと思えば、恵はおもむろに人の股ぐらに手を伸ばしてきた。そして文庫本を片手に僕の油断しきっていた大事な部分、竿じゃなくて袋の方をふにふにと揉んできたのだ。急所を掴まれて驚かない男はいない。びくりと身体を跳ねさせたのは仕方ないことだ。が、そんな驚いている僕を気にすることなく恵は読書のお供に僕の大事なところの感触を楽しむもんだから、普段なら何も言わずに放置している恵のふみふみに口を挟んだ。その回答がこれだ。
「腕とか胸は好きなだけ揉んでいいからさ、そこはやめてもらっていい?」
好きな子に触れられて嫌な人間はいない。だが流石に場所が悪すぎる。僕だって一応まだまだ元気な一人の男なのだ。そんな意図が一切ないのは触り方で分かっていても、ついつい恵が触っているところの上、要するに竿の部分が元気になりそうになる。僕自身にそんな気は一切なくても、困ったことに身体は単純だ。
僕の困った声にやっと顔を上げた恵が、ちょっと考える顔をしてから再び視線を本に戻した。僕の顔は少し熱を持っている。気付いたのなら手を離してほしいんだけどな。
「勃ちそうなら萎えること考えたらいいんじゃないですか」
「恵が触るのやめればいいじゃん」
「今日はここの気分なんですよ」
「いや、ほんとに勘弁して…」
快感を与えるでもない、本当に感触を味わうだけの手つき。はぁ、と深く息を吐き出して煩悩を追い払う僕はなんて健気なのか。やろうと思えば恵の手を撥ね除けるなんて簡単なのにそれをしないのだから。この健気はまたの名を惚れた弱み、とも言う。
もう資料に目を通すのはやめて、ソファに凭れる。目を閉じると余計に触れられている感覚が鮮明になるから天井の隅っこを見つめた。萎えることってなんだ。急に言われると案外浮かばないもので、萎えることを見つける前に天井に穴が開きそうだった。
「じゃあほら、俺に抱かれるの想像したらどうですか。嫌でしょ」
「え?いや別に」
段々険しくなっていく僕の顔に見かねたのか、恵が助け船を出してきた。しかし僕は恵が思っているほど今のポジションに強い拘りはないのだ。初めての時に二人してお尻を綺麗にしてきて、ベッドの上でえっ?て顔をしたのも既に懐かしい記憶。恵も男の子だからやっぱ突っ込みたいものだろうと準備してきたら本人にはそんな気は一切なくて、僕に抱かれるつもりしかなかったことに再びえっ?て目を丸くしたのも同じく懐かしい記憶。そこから今日までポジションに変化はないが、恵が望むのなら僕はいつだってお尻を捧げるつもりだ。好きな子が僕の身体で気持ちよくなってくれるのなら形は何であれ大歓迎。よって、恵の提案は残念ながら単純で素直な僕の下半身を鎮めてはくれない。
「………」
ちら、と恵の顔を見ると目をまん丸にしてこちらを見つめていた。思ってもみませんでした、と顔に書いてある。
「てかなに、恵は僕が抱いてって言ったら萎えるの?」
「……たぶん、萎える」
想像したのか、眉間に皺を寄せた恵はぽそりと零した。自ら進んで抱いてくださいなんて言う気は無いが、それでもちょっと傷付いたんだけど。ていうかどんだけ僕に抱かれたかったんだ当時の恵は。なんなら今の恵も。このむっつりさんめ。
「…まぁだからね?今の僕は何されても元気になっちゃうの。ほら、手ぇ止めなさい」
しかし結局のところ僕は恵に甘い。この身体ひとつで恵にリラックスタイムと安心を与えられて、そのついでに愛情を感じられる。今回に限って場所が悪いだけで、役得なのだ。
「ふふ、なんか変態みたいですね、五条さん」
「恵が言うんじゃないよ」
人の股ぐらのどこがそんなに魅惑の触り心地なのか。楽しそうなむっつりさんの鼻をぎゅっと摘んだ。
畳む
本当に山なし落ちなし意味なし
猫はクッションや人のお腹を前足でふみふみと揉んでこねることがある。スマートフォンで「猫 ふみふみ」で調べると、その行動の意味はリラックスしているだとか、愛情表現だとか、安心であるとか出てくる。なるほどなぁ、と画面をスクロールしながら一人でうんうんと僕は頷いた。
ということは、恵がいましているこれはリラックス、愛情表現、安心、そのどれなのだろうか。
「…恵、なんで今日はそこを揉んでるのかな?」
恵はちょくちょく猫のふみふみみたいなことをする。僕の身体で、だ。すすすっと僕の横に座ったかと思えば二の腕をマッサージするようにむにむにと揉んでくる時もあるし、布団の中で邪険にするんでもなく僕の胸をぐいぐいと手のひらで押してくるときもある。何を考えているのか分からない顔で、無心で人の身体の感触を堪能するのだ。好きな子との性的なものを含まない温い触れ合いは心地よかったし、小動物に懐かれてるみたいで悪い気もしなかった。だから可愛いなぁと今までは放置していたのだが。
「なんか、触り心地よくて」
「じゃあ自分の触ればいいじゃん」
「俺が変態みたいじゃないですか」
「変態だよ!」
ソファで明日の任務資料を見ている僕の横にやってきたかと思えば、恵はおもむろに人の股ぐらに手を伸ばしてきた。そして文庫本を片手に僕の油断しきっていた大事な部分、竿じゃなくて袋の方をふにふにと揉んできたのだ。急所を掴まれて驚かない男はいない。びくりと身体を跳ねさせたのは仕方ないことだ。が、そんな驚いている僕を気にすることなく恵は読書のお供に僕の大事なところの感触を楽しむもんだから、普段なら何も言わずに放置している恵のふみふみに口を挟んだ。その回答がこれだ。
「腕とか胸は好きなだけ揉んでいいからさ、そこはやめてもらっていい?」
好きな子に触れられて嫌な人間はいない。だが流石に場所が悪すぎる。僕だって一応まだまだ元気な一人の男なのだ。そんな意図が一切ないのは触り方で分かっていても、ついつい恵が触っているところの上、要するに竿の部分が元気になりそうになる。僕自身にそんな気は一切なくても、困ったことに身体は単純だ。
僕の困った声にやっと顔を上げた恵が、ちょっと考える顔をしてから再び視線を本に戻した。僕の顔は少し熱を持っている。気付いたのなら手を離してほしいんだけどな。
「勃ちそうなら萎えること考えたらいいんじゃないですか」
「恵が触るのやめればいいじゃん」
「今日はここの気分なんですよ」
「いや、ほんとに勘弁して…」
快感を与えるでもない、本当に感触を味わうだけの手つき。はぁ、と深く息を吐き出して煩悩を追い払う僕はなんて健気なのか。やろうと思えば恵の手を撥ね除けるなんて簡単なのにそれをしないのだから。この健気はまたの名を惚れた弱み、とも言う。
もう資料に目を通すのはやめて、ソファに凭れる。目を閉じると余計に触れられている感覚が鮮明になるから天井の隅っこを見つめた。萎えることってなんだ。急に言われると案外浮かばないもので、萎えることを見つける前に天井に穴が開きそうだった。
「じゃあほら、俺に抱かれるの想像したらどうですか。嫌でしょ」
「え?いや別に」
段々険しくなっていく僕の顔に見かねたのか、恵が助け船を出してきた。しかし僕は恵が思っているほど今のポジションに強い拘りはないのだ。初めての時に二人してお尻を綺麗にしてきて、ベッドの上でえっ?て顔をしたのも既に懐かしい記憶。恵も男の子だからやっぱ突っ込みたいものだろうと準備してきたら本人にはそんな気は一切なくて、僕に抱かれるつもりしかなかったことに再びえっ?て目を丸くしたのも同じく懐かしい記憶。そこから今日までポジションに変化はないが、恵が望むのなら僕はいつだってお尻を捧げるつもりだ。好きな子が僕の身体で気持ちよくなってくれるのなら形は何であれ大歓迎。よって、恵の提案は残念ながら単純で素直な僕の下半身を鎮めてはくれない。
「………」
ちら、と恵の顔を見ると目をまん丸にしてこちらを見つめていた。思ってもみませんでした、と顔に書いてある。
「てかなに、恵は僕が抱いてって言ったら萎えるの?」
「……たぶん、萎える」
想像したのか、眉間に皺を寄せた恵はぽそりと零した。自ら進んで抱いてくださいなんて言う気は無いが、それでもちょっと傷付いたんだけど。ていうかどんだけ僕に抱かれたかったんだ当時の恵は。なんなら今の恵も。このむっつりさんめ。
「…まぁだからね?今の僕は何されても元気になっちゃうの。ほら、手ぇ止めなさい」
しかし結局のところ僕は恵に甘い。この身体ひとつで恵にリラックスタイムと安心を与えられて、そのついでに愛情を感じられる。今回に限って場所が悪いだけで、役得なのだ。
「ふふ、なんか変態みたいですね、五条さん」
「恵が言うんじゃないよ」
人の股ぐらのどこがそんなに魅惑の触り心地なのか。楽しそうなむっつりさんの鼻をぎゅっと摘んだ。
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2025年2月 この範囲を時系列順で読む この範囲をファイルに出力する
いくらなんでも子供を描くのが下手くそすぎる。びっくりするほど可愛くない
2025.02.25 03:28:07 編集
子猫の甘噛み
五条先生は俺の顔を触るのが好きだ。
その中でも特に好きなのが頬。手慰みに意味もなく人の頬を撫でるし摘むし揉む。以前理由を聞いたら「やわらかいから」と答えられたことがあるが、自分で触ってみても小さい子供のような柔らかさは当然なくて首を傾げたものだった。しかし、任務終わりの迎えを待ってる間に次の資料に目を通しながら俺の頬を摘むだとか、何気ない会話の合間に意味もなく俺の頬を撫でるだとか、はたまた今みたいにベッドで人を抱き枕にして任務の報告書に目を通しながら俺の頬を揉みしだくだとか、五条先生の手慰みは俺の日常にすっかり溶け込んでいる。
男ふたりで寝そべっても余裕のあるベッドの上で、五条先生に背後から抱き枕にされながら俺は先日買ったばかりの小説を読んでいた。向こうが人を抱き枕にするのなら、こっちも人を布団にしてもいいのだ。
温かい身体に包まれて心地良さと僅かの眠気。頬に触れてくる手も温かくて、まだ文章は目で追えているし頭に入ってくるがそれもままならなくなるのも時間の問題。ぱらぱらとページを捲り、残り数ページで今読んでいる章が終わるのを確認する。ここまで読んだらこのまま寝てしまおう。
やがてお互い会話もないまま時間が過ぎて、俺が読んでいた小説は一区切りを迎えた。そして、栞を挟んで五条先生の腕の中で小さく欠伸をした時だった。
「…ん、」
「あ、ごめん」
五条先生の指先が唇を通り過ぎて歯に当たったのだ。頬を揉みながら気まぐれで唇を軽く摘まれたり撫でられたりということはあったが、流石に口内に入ってくるのは珍しい。変な意味を含まない、ただの偶然による指先の侵入。すぐに出ていこうとしたその指を、心地好い眠気に沈みかけていた俺は無意識に噛んでいた。
「…こら」
噛むと言っても甘噛み。軽く歯を立てて唇で吸い付くような。五条先生に揉まれ続けてすっかり熱を持った頬と、眠るのに丁度いい人肌の布団。頭の中はさっきまで読んでいた本の文字がふわふわと浮いていてベッドメリーのようだった。
背後で五条先生の少し困ったような声がする。さっきまで報告書に向いていた意識が完全に俺に向いていて、ちうちうと吸いつかれている指先をどうしたものかと頭を悩ませていた。今日は俺も先生もそういうことをしたい気分ではなかったし、そもそも後ろの準備だってしていない。ただただ引っ付いてゆっくり過ごしたいだけ。
「ふふ、…」
「あっ、こら、寝るんじゃない」
指を引き抜くことも動かすことも出来ない五条先生の声を子守唄に、とうとう俺は心地好い眠りの世界に旅立った。
畳む
五条先生は俺の顔を触るのが好きだ。
その中でも特に好きなのが頬。手慰みに意味もなく人の頬を撫でるし摘むし揉む。以前理由を聞いたら「やわらかいから」と答えられたことがあるが、自分で触ってみても小さい子供のような柔らかさは当然なくて首を傾げたものだった。しかし、任務終わりの迎えを待ってる間に次の資料に目を通しながら俺の頬を摘むだとか、何気ない会話の合間に意味もなく俺の頬を撫でるだとか、はたまた今みたいにベッドで人を抱き枕にして任務の報告書に目を通しながら俺の頬を揉みしだくだとか、五条先生の手慰みは俺の日常にすっかり溶け込んでいる。
男ふたりで寝そべっても余裕のあるベッドの上で、五条先生に背後から抱き枕にされながら俺は先日買ったばかりの小説を読んでいた。向こうが人を抱き枕にするのなら、こっちも人を布団にしてもいいのだ。
温かい身体に包まれて心地良さと僅かの眠気。頬に触れてくる手も温かくて、まだ文章は目で追えているし頭に入ってくるがそれもままならなくなるのも時間の問題。ぱらぱらとページを捲り、残り数ページで今読んでいる章が終わるのを確認する。ここまで読んだらこのまま寝てしまおう。
やがてお互い会話もないまま時間が過ぎて、俺が読んでいた小説は一区切りを迎えた。そして、栞を挟んで五条先生の腕の中で小さく欠伸をした時だった。
「…ん、」
「あ、ごめん」
五条先生の指先が唇を通り過ぎて歯に当たったのだ。頬を揉みながら気まぐれで唇を軽く摘まれたり撫でられたりということはあったが、流石に口内に入ってくるのは珍しい。変な意味を含まない、ただの偶然による指先の侵入。すぐに出ていこうとしたその指を、心地好い眠気に沈みかけていた俺は無意識に噛んでいた。
「…こら」
噛むと言っても甘噛み。軽く歯を立てて唇で吸い付くような。五条先生に揉まれ続けてすっかり熱を持った頬と、眠るのに丁度いい人肌の布団。頭の中はさっきまで読んでいた本の文字がふわふわと浮いていてベッドメリーのようだった。
背後で五条先生の少し困ったような声がする。さっきまで報告書に向いていた意識が完全に俺に向いていて、ちうちうと吸いつかれている指先をどうしたものかと頭を悩ませていた。今日は俺も先生もそういうことをしたい気分ではなかったし、そもそも後ろの準備だってしていない。ただただ引っ付いてゆっくり過ごしたいだけ。
「ふふ、…」
「あっ、こら、寝るんじゃない」
指を引き抜くことも動かすことも出来ない五条先生の声を子守唄に、とうとう俺は心地好い眠りの世界に旅立った。
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